TaiRa

沓掛時次郎 遊侠一匹のTaiRaのレビュー・感想・評価

沓掛時次郎 遊侠一匹(1966年製作の映画)
5.0
錦之助の人を斬った後の表情は、ブルース・リーが人を蹴り殺した後の表情と同じ。怒りと悲しみと恍惚が綯交ぜになったあの顔。

一幕目だけ別の話というか、任侠の世界とは如何なるものかっていうプロローグみたいな感じ。原作にない渥美清のキャラクターとかは脚本家二人が創作したものらしいけど、あれが良いのよね。あぁ、これがヤクザの世界なんだなっていう。ラストにも繋がるけど、この世界の無情さとか理不尽さに一番苦しめられるのが時次郎だから、ああいう周辺人物の辛いエピソードは重要だった。任侠道の義理人情や仁義がどれだけ悲惨な世界を生むか、と同時にその任侠道そのものの尊さを時次郎が体現してるっていうね。渡世人として筋を通す為に斬った相手との絆とか、その男の妻子への贖罪の意識と愛情とか。時次郎が斬り合いに先んじてこの妻子と会った時の幸福な光景が美しい。斬った相手の妻へ抱いてしまう恋情の切なさよ。折ったつげ櫛の使い方とか、物を介した恋愛表現が最高だよ加藤泰。クライマックスの大乱闘でも錦之助の殺陣はとにかく美しい。ラストの決闘において、時次郎が振り上げた刀に一瞬だけ反射する太陽光。奇跡的。
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