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ナイト・オン・ザ・プラネットのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

4.2
『ジム・ジャームッシュの映画を観るということ』


今宵地球上に散らばる都市で同時多発的に起こっている、タクシー内でのドライバーと客達の小噺を5つ。5つのハプニングが同時進行しているからと言ってそれぞれの話に特に関連がある訳ではない。ドラマを観るというよりも運ちゃんと客の掛け合い漫才を楽しむ映画である。

さて、そんな映画が面白いのか。
これが面白いのである。


ジャームッシュの映画の面白さは、「人生に意味は無い。」ということを押し付けではなくさらりと、しかもじわっと伝える小気味良さにあると思うのだ。

90年代、ミニシアターブームの牽引役となったこのような映画を観ることは一種のファッションであったが、それだけに終わることなく今現在においても十分に鑑賞に耐え得る価値を持ち得たことは、上記の如く時間をおいてじわっと伝わる味わいの深さを本作が備えていたことの証左であろう。

この映画においてタクシー運転手と乗客の人生は一時的に交錯し確かな影響を与え合うが、そこには物語を語る上での明確な意味合いは無く、全てが行き掛かり上の出来事即ちハプニングに過ぎない。
それでも強烈に印象に残るのは、可笑しくて無様な人間の生き様である。

このハプニング的な混沌こそがジャームッシュの持ち味であり、偶然乗り合わせた運転手と乗客の出会いに何の意味があるのか、いや意味など考えるのもアホらしくなるような笑っていいものかどうか分からない漫才もしくはコントを見るような居心地の悪さ(それは懺悔をすることで聖職者を死なせてしまったり盲目の女を怒らせた後に衝突事故を起こしたりするような悲喜劇である)が、まるでハプニングの当事者達と共犯関係を結んでしまったかの如くじわっと我々のマインドに独特の余韻を残す。


このアホらしいキャラクターどもに今一度喝采と祝福を!
人生に意味は無く、残るのは生き様という生の余韻だけである。
それをリマインドするために、これからも何度となく観返すことになるだろうという愛着を込めて。
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