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ウェンディ&ルーシーのarchのレビュー・感想・評価

ウェンディ&ルーシー(2008年製作の映画)
3.8
「動くことすら叶わない」

本作はフィルムによる淡いタッチと車という移動手段等を用いて現実的な表現で描いており、非常にロードムービー的である。自分の観てきた映画の中だとジム・ジャームッシュに近いなぁと感じていたが、実の所決定的に違う。
それは貧困や格差などの社会問題をテーマに描いているところが1つ。そして決定的に違うと感じたのはこの物語は決して何か何処へも進んでいない、停滞の物語になっているからだ。

ある一人の白人女性ウィンディーと犬ルーシーがアラスカへと向かう。金もなければ家もなく、仕事があるという噂を聞きボロ車で向かう。しかし車は動かなくなり、犬も行方不明。そんな中で彼女は必死にもがいていく。

誰も彼女に悪意を向けている訳では無い。しかしそれでもこの世界は貧困によって彼女には耐え難い残酷なものに変貌している。

ラストの彼女と犬を隔てるフェンスが非常にアイロニックな構造をもたらし、彼女の置かれている状況を痛烈に描いている。

この映画では、何も起こらない、何も始まらない、誰も悪くない。ただ全てが息詰まるように積み重なり、窒息しそうになっているだけだ。
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