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最後の誘惑のatsushiのレビュー・感想・評価

最後の誘惑(1988年製作の映画)
3.8
カザンツァキスの同名小説の映画化。本作が他の宗教映画と異なるのは聖書や福音書ではなく、あくまで小説の映画化だというところにあります。

マーティン・スコセッシと聞いて思い浮かぶのはマフィア映画、それとも宗教映画でしょうか。一見、対極に位置しているように思われるこの2つのジャンルは、しかし表裏一体どころか一心同体ですら感じられる。『タクシードライバー』、『ミーンストリート』、『グッドフェローズ』どれを取ってもキリスト教のモチーフは欠かない。逆に今作は宗教映画の体を装っていながら、その本質は神の子キリストを1人の人間として解釈し描くという、異色の宗教映画です。元々聖職者を志しながら、隣人がマフィアというリトルイタリーで育ったスコセッシにとって、この2つは切り離すことのできないテーマなのでしょう。イエス役のウィレム・デフォーにしてもユダ役のハーヴェイ・カイテルにしても、どう見てもマフィア顔負けの強面。配役からも察する通り、スコセッシからすればこの2ジャンルにボーダーは存在しない気がするのです。

『ミーンストリート』のロバート・デ・ニーロ、『沈黙』の窪塚洋介、そして今作のハーヴェイ・カイテルが担う"裏切り"は、普遍的なテーマであり、スコセッシのマフィア映画、宗教映画を貫く一本の筋として存在しています。

本作の製作中もずっとロックを聴きながら構想を練っていたという、実にスコセッシらしい。

2023/2/19 1回目
【2023年50本目】
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