るるびっち

バグズ・ライフのるるびっちのレビュー・感想・評価

バグズ・ライフ(1998年製作の映画)
4.0
黒澤の『七人の侍』を下敷きにしているが相違点がある。
『七人の侍』では、野伏せりの実態は見せていない。
『用心棒』でも、敵の卯之助の強さは示さない。
敵側を余り見せないのが黒澤の癖だ。
本作はアメリカ映画らしく、キチンと敵側の事情も見せる。
アメリカ映画の文脈だからでもあるが、他の意味もあると思う。

『七人の侍』では、百姓より侍にスポットライトが当たっていた。
黒澤が苦心したのも、個性の違う侍のキャラクター造形だ。
しかし本作では、侍役のサーカス団員の虫達より、百姓側である蟻たちの方に重要なキャラクターを置いている。

テーマの違いが、これらの相違を生んでいると思う。
小さくても自分の力を信じて失敗しても奮闘する話で、主人公蟻のフリックはそれを体現している。
才能はあるが、奮闘するほど空回りして迷惑をかけるのだ。
野伏せりバッタを倒すために助っ人を探すが、勘違いで弱小サーカス団を連れてくる。
バッタが恐れる小鳥の張りぼてを蟻たちの協力で完成させるが、サーカス団の正体がバレて信用を失う。
さすがに落ち込むが、かつて幼い蟻に説いた小石で励まされる。

絶体絶命の中、自分を信じて「蟻の方が強いんだ」と叫ぶ。
『蟻とキリギリス』を蟻とバッタに置き換えた着想で、働き者の蟻に寄生して食料を集めさせていたバッタは、実は労働者の反乱を恐れている。恐怖政治で洗脳していたが、蟻が目覚めればキリギリスと同じ末路。

「小さくても自分の力を信じれば、大きな力になる」
小さな蟻のフリックは失敗続きで仲間に疎まれながらも、それを信じてやり抜く。さすがに信用を失い落ち込んだ時は、幼い蟻に小石で励まされる。
「小さな種もやがて大きな木になる」と幼い蟻に説明したのだ。手にしていたのは、種ではなく小石だったが・・・
つまり、詰らぬ物でも信じる事が大事。才能で悩むことはない。

興味深いのは、これがフリック一匹の教訓ではなく、蟻社会全体の教訓でもあることだ。
だから、蟻達は一瞬でその意味を理解する。
小さな一匹の蟻の発言を、何万匹の蟻が信じることで正に大きな力になる。逆に皆が信じなければ、大きな力にならない。
それは悪役のバッタも理解している。
バッタ側を描いた際、実は食料はタンマリあり、一集団位見逃しても困らないのだった。ここも『七人の侍』と違う。
バッタの親分は、一匹が反抗心を持てばそれが伝染する。集団が気付けば、奴らの方が数が多いのだから困ると、フリックの発言の裏打ちをしていた。
何回もテーマを繰り返し、敵側からも補足している。
一匹だけのテーマではなく、社会全体のテーマなのだ。
これは侍の映画ではなく、百姓たちの映画だ。

先日の国会で、ある議員が、消費税を下げない岸田首相に意見した。
「今の岸田首相は資本家や財務省の飼い犬。しかし、本来は国民の飼い犬でしょう、飼い主を間違えてはいけない」
本当は国民の方が強いんだ。
飼われているのは国民ではなく、政治家の方なんだ。
蟻が気付いたことを、日本国民も気付かないと。
岸田バッタを退治しよう!!
奴らが日本を食いつくす前に・・・
るるびっち

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