TenKasS

精神(こころ)の声のTenKasSのレビュー・感想・評価

精神(こころ)の声(1995年製作の映画)
-
映っている警備隊の兵士は皆死んでしまい戻らなかったという注釈に基づけば奇跡のようなカメラの潜入としか言いようがない。撮影に行った人たちのメンタル面が気になってしまう。
ソクーロフ作品特有の色使いによって、世界のこんなところで戦争をやる意味とは…という徒労感が先行する。そこは世界の果てにしか見えず、敵の姿も当然見えない。故郷は夢の中にだけあり、あまりに遠い。その上ロシアとは対照的にいつでもどこでも暑いらしくナレーションも「暑い」とばかり言っている。
第一話目があまりに攻めた内容で驚いてしまった。兵士の寝顔がディゾルブで映される以外は、淡々と風景に音楽とナレーションが乗っているだけだ。しかもナレーションも戦地のことについてではなく、流れている音楽(モーツァルト、ベートーベン)についてであり、観客に向けて「聴いてください」なんていう内容まである。何故モーツァルトやベートーベンがフィーチャーされるのかもよくわからない。
ただ、2話目以降は撮影班が戦地へ赴いてから行軍、戦闘を経て新年を迎え帰るまでと、構造的に不思議なところはない。一話はやはり、ロシアに帰れなかった兵士たちのための鎮魂のために入れられているのだろうか。「95年、それは我らの除隊の年!」「95年、どんな年になるかな」なんていう新年を迎えた時の無邪気さが浮き彫りにする迎える結末の虚しさ。
死者たちの声を記録したその生々しさ、届くはずのなかった声が届けられたような感覚と、仕上げられた作品の芸術性の高さに目を見張った。
TenKasS

TenKasS