O次郎

若い狼のO次郎のネタバレレビュー・内容・結末

若い狼(1961年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

61年製モノクロ作品。
青春映画...の皮を被ったその実は鬱映画。『傷だらけの天使』でのショーケンさんの目覚めるOP映像が有名な恩地秀夫監督のデビュー作だそうな。
主演の夏木陽介さんは、未だ後のGメン75の小田切警視のダンディーさの塊みたいな片鱗は微塵も無く、その時代の映画会社各社のニューフェイスはかくあっただろうという瑞々しい男前。

中学時代にケンカに明け暮れて少年院に入っていた主人公が出所(同期に出所する悪友は若き日の田中邦衛さん!?)するところから物語が始まる。
山間の寒村で、主たる働き場であった炭鉱は閉鎖されており、職探しを口実に恋人を追って上京するが...はてさて。

進学で同じく上京している友人の計らいで早々に恋人と再会できるが、生活苦から水商売に手を染めた彼女はすっかり垢抜けてしまっており、戸惑う夏木さんは言い争いの末に彼女に手を挙げてしまうが、少年院時代から肌身離さず持っていた彼女の写真のお陰で二人は元の鞘に戻り、厳かに口づけをする。
星由里子さん演じるヒロインの透き通る涙が胸を打つ、実に青春映画らしいシーンである。

ところが「陽」としての物語の側面は早くもここがピークであり、あとは暗転真っ逆さま。
大都会とはいえまだまだ高度経済成長の突端時期で、ヤクザの絡んだ労働争議も盛んであり、年少帰りで頼れる縁故者も無い主人公には尚のこと職が見つからない。

大学生の悪友が小遣い稼ぎのためにしたたかに彼をヤクザの道に誘おうとするが、彼女との未来のためにも頑として首を縦には振らず、あくまで堅気であろうと踏ん張る。
その彼に応えようと、自分も水商売から足を洗おうとする星由里子さんの姿がなんともいじましい。はすっぱで「あたい」という言葉遣いがなんと可愛らしいことか...。
女優の妙で映画を観るなら、この点だけでも十分にアリだろう。

さて、出色なのがその後の主人公の趨勢。
当て所無い職探しに疲れる中、かつての恩師が近くの病院に入院していると耳にして喜び勇んで見舞いに駆け付ける。
遠慮がちにもその先生に就職の世話を頼むも遠回しに断られ、それを聞いていた隣の病人の男性から工場の仕事を紹介されるも、年少帰りとの過去を打ち明けるとあっさりと掌を返される。そのまま絶望して病院を飛び出していく主人公。
映像としてはたったの数分間だが、転落の端緒の描写として淡々としているが故に印象は鮮やかであり、リアルである。
おそらく、現実世界での転落の切っ掛けもこのように些細なものなのであろうという説得力が怖い。

その後はあれだけ忌避していたヤクザの仕事にいとも簡単に足を踏み入れ、抗争相手との小競り合いの尖兵として斬り込み、呆気なく相手方の一人を刺殺してしまう。
そして刑務所の中で慟哭する中、無情にも『終』のエンドロールが流れる。年少の出所から僅か数日間の出来事である。

他にも同時代の青春の光と鬱屈を描いた作品は多々有ろうが、今作は80分弱の尺にそれがごく簡潔に、淡白に描かれており、だからこそ新東宝の商業主義根性バリバリの映画を観ての胃もたれみたいなものとは無縁の潔さが光る。
ギラギラした作品はそれはそれで良いんだけども。
O次郎

O次郎