ノットステア

カラスの親指のノットステアのレビュー・感想・評価

カラスの親指(2012年製作の映画)
4.0
○U-NEXT紹介文
始まって数分でだまされてしまう!欺かれる快感と爽やかな感動のコンボ作品
見どころ
安定感抜群の阿部寛に率いられた詐欺集団が奏でる、人情とだましの二重奏。「あまちゃん」とまるで違うクールな能年玲奈と、素朴な村上ショージの演技は本作の収穫だ。
ストーリー
タケとテツの中年詐欺師コンビはひょんなことから、やひろとまひろの姉妹と、やひろの恋人・貫太郎と出会い、共同生活を送ることに。彼らが家族のようになれた時、姿のない脅威が迫って来る。そこで5人は、一発逆転を賭けた大勝負に打って出る。
ここがポイント!
原作は、本作で直木賞候補となったサスペンス界の新鋭・道尾秀介。さまざまな伏線が結実するラストに驚愕しつつ、結末を知って、もう一度見直すのも楽しい。



○感想
原作が好き。何年も前に一度読み、『カエルの小指』という続編が出たタイミングでもう一度読んだ。もちろん『カエルの小指』も読んだし面白かった。
本筋や大体のストーリーは原作と同じ。160分と長い上映時間ではあるとはいえ、当然、原作を圧縮しなければならない。コンゲームなので後半では詐欺の大勝負があるが、詐欺の途中から原作と違っていた。性的なセリフは無くなっていた。
原作を読んでいれば、大体のあらすじはわかったうえで観ることになる。それでもこの後どうなるんだろうかと気になりながら観ることができた。

『健太郎さん』(2019)の健太郎さん役の龍坐さんが出演していた。

以下、ネタバレあり














うまくいきすぎな感じはある。原作では、すべてテツの仕業だったんだぁってなんか納得しちゃったけど、何でもかんでもテツの思い通りにいくのはできすぎな感じがした。
映画では、復讐として本物の闇金業者から金を取る。原作では金を奪った闇金業者はテツが買収した劇団員たちの演技。原作のほうが失敗をしても助かるという点でテツの抜かりなさがあって好き。

村上ショージの演技悪くなかったと思うんだけどなー。評判はイマイチだけど。。。

貫太郎って、映画『阪急電車』のカツヤ役の人か!あの最低彼氏だとは気づかなかったなー。



○印象的なセリフ(原作『カラスの親指』より)
p.183
まひろ「でもさ、何でわざわざイルカがどうのこうのなんて話にしたの?あたしもうちょっとで笑いそうだったよ
タケ「喧嘩のふりをして注目を集めるってのが常套なんだけどな。あれは目を向ける奴と目をそらす奴が、じつは半々くらいなんだ。あまりいい手じゃねえんだよ。でも、ああいった話なら、みんなテツさんの顔を見るだろ?」
まひろ「ああ、なるほど」
→これは映画にはない場面。お店でトサカのペットフードを万引きするシーン。古典的なトリックで、他の映画でもよく目にする。例えば『Ocean's12』の列車のシーン。
喧嘩をすると喧嘩してる人間たちに視線が集まる。その隙に他の人間が何かしても目撃されない。視線を集めることができればなんでもいいわけだから応用も効く。
だけど、喧嘩の場合、怒りの矛先が自分に来ては困るから、目をそらす人もいるわけだ。なるほど。勉強になった。(なんの勉強???)

pp.219-220
貫太郎「そうですかね。まあとにかく、僕は詐欺師って好きだなあ。なにしろ技術を駆使して人を騙すってところがとても恰好いいじゃないですか。マジックみたいで。ところでみなさん、マジックといえば、理想的な詐欺と理想的なマジックの違いをご存知ですか?」
 ちゃんと飲み込む前に喋るものだから、口からニラやわけのわからない汁が飛ぶ。対面のまひろが自分の茶碗に手を被せた。
「あのですね、理想的な詐欺はですね、相手が騙されたことに気づかない詐欺なんですよ。それが完璧な詐欺なんです。でも、それと同じことがマジックにも言えるかというと、これが違う。まったく反対なのです。マジックでは、相手が騙されたことを自覚できなければ意味がないのですよ」
→貫太郎がマジシャンという話は映画出てこない。鍵付きのケースからマジック道具が出てくるかと思ったら、空気銃しか出てこなかった。

pp.493-494
テツ「タケさん。何で自分が、娘の名前を『まひろ』にしたか、わかります?」
 武沢は黙って言葉のつづきを待った。
「彼女が生まれたとき、はじめは、『真っ白』って意味の「ましろ』にしようと思ったんですよ。自分みたいな人間じゃなく、心の真っ白な人間になって欲しくてね。でも、急に不安になったんです。この世の中は、とても真っ白な心を持った人間が生きていけるような場所じゃない。だって、自分みたいな連中がうようよしてるんです。どこかで人を疑うことも必要なんです。だから――一文字変えて、『まひろ』にしたんですよ。白い心より、広い心のほうがいくらかいいでしょ。この世の中を生きていくには」
 テツさんは唇を結んだ。しばらく自分の膝先に視線を遊ばせ、何事か考えていたかと思うと、ふたたび口をひらく。 「詐欺師なんて、人間の屑です」
 静かな、しかし針のような鋭さを持った言葉だった。その針の先は武沢の胸の中心めがけて真っ直ぐに突き出された。 「ろくな死にかたしませんよ。最後は一人きりで、誰にも見守られずに死んでいくに決まってます。詐欺師ってのは、最低の生き物なんですよ。自分は、ちょっと気づくのが遅すぎました」
 テツさんは口の中の砂を吐き出すような言い方で、遅すぎました、ともう一度呟いた。うつむけていた顔を武沢に向ける。
「人間は人間を信頼しなきゃ生きていけないんです。絶対に、一人じゃ無理なんです。死にかけの身体になって、自分、ようやくそのことに気づきました。人は人を信じなきゃいけない。それを利用して飯を食う詐欺師は、人間の屑です。自分が二十年以上、タケさんが七年間やってきたのは、救いようのない、最低の行為なんですよ。ヤクザやヤミ金組織と何の変わりもないんです。他人の罪はよく見える。でも自分の罪は、背中にしょってるもんだから見えないんです。そんな生活を長くつづけていると、尻尾を咥えた蛇みたいに、自分で自分を追い込んで、いつかは一人で干涸らびて死んじまいます」
→まひろの名前の由来は映画では言われないが、人間は人間を信用しないと生きていけない話は映画にもある。

p.504解説(市川真人)
前から読み進めてゆく「小説」というテクノロジーの約束上、読者はつねに騙されるしかない(疑うことはできるけれど、それがただの疑いなのか、それともトリックを見破ったことになるのかは、結局、作者次第である)。
→小説だからこそ成り立つ物語だと思っていたが、セリフなどでうまく実写化したなぁと感じた。



○あらすじ
競馬場。馬券で詐欺。タケ(阿部寛)は馬券のことを何も知らないフリをする。声をかけるテツ(村上ショージ)。タケにユースケ・サンタマリアが声をかける。テツはコーチ屋だから換金時に金を取られると。ユースケ・サンタマリアはタケに当たった金額を少なく伝え、騙そうとしている。タケはユースケ・サンタマリアに換金を頼み、お金を受け取る。馬券2枚を貼り付けたもので、ユースケ・サンタマリアはお金をおろすことができない。(原作では銀行で詐欺を行うので、だいぶオリジナルのストーリーになるのかな?と思いながら観た。)

自宅が火事。逃げる。

タケは会社の同僚の借金の保証人になったことで借金を背負っていた。取り立ての仕事を闇金のヒグチに任されていた。タケはある女性から取り立てをしていた。その女性は娘2人を残して自殺。タケはヒグチの裏帳簿を警察へと持ち込み、組織は壊滅させた。タケは仕返し自宅に火をつけられ、娘を亡くしていた。
その後詐欺師になった。
タケは自殺した女性の娘たちにお金を送り続けている。

上野へ。
質屋で安物を高く売りつける詐欺。

女の子のまひろがスリを失敗。タケとテツは助ける。
タケはまひろが、自殺した女性の娘だと気付く。家賃滞納でアパートを追い出されそうになっているまひろ。
タケは追い出されて困ったらウチに来いと言う。
後日まひろは姉のやひろとその恋人の貫太郎を連れてやってくる。
ネコが家に入ってくる。トサカと名付けて飼う。

不審な車が家の前に停まってる。家の裏手に火をつけられる。トサカの死体が家の前に捨てられる。

ヒグチの仕業だと推測し、タケは逃げようと考える。テツやまひろややひろ、貫太郎の言葉で、ヒグチたちから金を騙し取ることにする。
タケがまひろたちに送り続けていたお金をまひろたちは使っていない。そのお金で作戦を実行することにする。

ヒグチの事務所と同じマンションの斜め下に部屋を借りる。ヒグチたちに盗聴器入りの携帯電話を買わせる。
事務所に現金を集めさせる。
タケ、テツ、貫太郎、まひろの4人は盗聴器を探ず業者を装い、闇金事務所に入る。
金庫に盗聴器がしかけられているふりをし、金庫を開けさせる。
貫太郎は銃を取り出し、金を要求する。貫太郎から金を守るために金を持ってまひろは外へ出る。貫太郎は予め火薬を仕込んだ場所に銃を向けて発砲する。まひろが転落。転落したまひろは実はやひろ。
作戦成功。大量の現金をヒグチらから奪うことに成功。

打ち上げ。
5人はバラバラに生活することを決める。
まひろたちはタケが自分たちの母親を自殺に追い込んだ取り立て屋だと言うことも、自分たちにお金を送ってきた人だということも、知っていた。共同生活を始めてから、それはタケとテツの会話を聞いたから。

後日、タケのもとにまひろたちから手紙が届く。名古屋でカタギの仕事を始めたまひろたち。トサカの生まれ変わりのようなネコが来たこと。
できすぎた話。タケは調べる。アパートを引っ越すきっかけとなった火事は煙が出るいたずらだった。テツが劇団を買収していた。上野で自分たちとまひろたちを出会わせたのもテツの仕業。競馬も貼り合わせた2枚目は当たり馬券。質屋も世間話をしていただけ(金を手に入れたふりしてテツは自分の金を出していた)。

タケは入院しているテツのもとへ行く。テツはまひろとやひろの実の父。
タケは真相を聞く。テツは大カラス(玄人ってこと)。肝臓を病み、余命1年と半年前に宣告された。

テツのアルバトロス作戦は一石三鳥の作戦だった。
タケを立ち直されるために、タケをヒグチに立ち向かわせること。
娘たちの再出発のために、タケと引き合わせること。
きっちりとヒグチたちに復讐を果たすこと仕返し。
テツは自分も最後に思い出が欲しかった。
(ヒグチが本当に出てくるとは思わなかった。原作ではとっくに病気で死んでいたし、闇金業者もすべて劇団員だったし。)