クイニーアマン

息もできないのクイニーアマンのネタバレレビュー・内容・結末

息もできない(2008年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

2021/05/01
ヤン・イクチュン監督
キャスト
ヤン・イクチュンさん、キムコッピさん、リーワンさん、ユンスンフンさん、チョンマンシクさん、キルヘヨンさん、イスンヨンさん、チェヨンミンさん、オジヘさん
脚本 ヤン・イクチュンさん
受賞歴
シンガポール国際映画祭 最優秀男優演技賞
ファンタジア国際映画祭 作品賞、最優秀男優賞、エクスチェンジ賞
ドーヴィル・アジア映画祭 ゴールデンロータス賞(グランプリ)、国際評論家賞
第38回ロッテルダム国際映画祭 タイガーアワード(グランプリ)

監督、脚本、男優を務めたヤン・イクチュンさんそしてヤン・イクチュンさんが演じるサンフンの抱える大きな闇を韓国人の方特有の感情解放の素晴らしさで見事に表現をされていました。
父が日々母への暴力をしそれを日常として見てきて、母を失いそれと共にまともな愛という感情を失ったヤン・イクチュンさん演じるサイフンのものすごく鋭い目付きや言葉遣いの悪さと素行の悪さ、もはや癖というぐらいにビンタしてから会話に入る、たちの悪さがとてもサイフンのキャラクターを見てる人を釘付けにしてしまう面白さでした。父親にお酒を「飲め、飲め」というシーン、母を殺したお前が憎い醜いという感情の表現がサイフンの黒い瞳やセリフ、口元の硬さから物凄く伝わりました。しかしある時暴力的でずっと仏頂面な顔しか見せていなかった彼が、高校生のキムコッピさんの強気の女ヤクザみたいな態度を前にすると少し手玉に取られてしまう、屋台で初めて見せた笑顔はここまで怒った表情ばかりだったからこそ凄く印象的でした。イファンさんが取り立て屋にきてヤン・イクチュンさんと同じ仕事を回る展開は予想がつかなかったので脚本も凄くおもろいなと思いました。
次に父親をボコボコに殴っりながらブチギレている最中に子供が部屋に入ってきた時の目がかつて自分の小さい頃を思い返しているような目で昔付いた心の傷は父が出所してきてからどんどんえぐれてきているなと感じました。そういう表現が暴力というコミュニケーションで吐き出しているように見えました。父が自殺未遂をはかり、どこにもぶつけることが出来ない怒りを爆発させていて、ずっと叫んでいるだけの芝居ってうるさいだけなんですが、見ていてうるさくないのに物凄い迫力と存在感とセリフの言い方がとてもよくて、呼吸をするタイミングを忘れてしまう程でした。
キムコッピさんの家での状況と外でヤン・イクチュンさんと会う時の違い、外ではそういう自分を見せないために隠し、そういう彼女を見てると物凄く辛い気持ちになります。父からナイフを向けられた時の怯えようだったり弟からの暴力を受けながらも姉として屈さないが心は確実に傷ついてる、本当にそういった内面の表現が凄いなと思いました。
また面白くて印象に残ったシーンでは、序盤のユンスンフンさんの、取り立てに行った住人と3人でご飯を食べているシーンです。取り立てに来たのに3人で机を囲って食べ物にがっついている風景がほんとに不思議な状況なんですが、演出としてすごい面白いなと思いました。そしてサイフンがユンスンフンさんに「高校生のガキがよ」と言いそれを言われたあとのユンスンフンさんと住人2人の気まずさ、「高校生なの?」と言われた後に「馬鹿野郎」と小声でいうところがとても可愛く見えるし、根はとても良い奴でいい表情するなと思いました。
当初にヤン・イクチュンさん演じるサイフンは、(人を殴る野郎は自分は殴られないと思ってる、そういう奴はいつか痛い目にあう)と取り立て先の男性に言っていました。終盤のシーン、その言葉が巡りに巡って帰ってきたんだと思いますが記憶が遠のいていく中、名前を呼んで今から行くという言葉だったり、あたかも目の前に人がいるような口調で、また虫の息のセリフで声に力はないのにどこが感じる魂のエネルギーがあり、本当に素晴らしい俳優さんだなと思いました。
韓国人の方の感情のキャッチボール、そして感情の着火と大爆発のさせ方は改めてものすごい勉強になりました。