らんでぃ

息もできないのらんでぃのネタバレレビュー・内容・結末

息もできない(2008年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

暴力の世界で生きる男サンフンと不幸な境遇で強く生きる女子高生のヨニが出会う話。
口も悪いしすぐ手も出るサンフンだけど、それは子供の頃の出来事や家庭環境が原因であり、同じような境遇の女子高生ユニと交流する事により段々と優しい心を取り戻していく、って書くとありがちで陳腐なストーリーなんだけど、めちゃくちゃ引き込まれてしまった。後述するけどそれだけでは終わらないし。まずサンフンってキャラクターの描き方がうまいね。社会的に言えばすぐに暴力を振るうどうしようもないクズなんだけど、そこにあまり悪意を感じないんだよな。自分はそうする事しかできないからそうするしかないみたいなもどかしさと歯痒さを感じる。衝動的に人を噛んでしまう動物のよう。こいつの人間としての本当の内面を知りたいと冒頭からまんまと思わされてしまった。サンフンが笑ったり泣いたりするだけでいちいち心に響いてしまう。そんなサンフンにガンガン来るヨニのキャラクターも面白いね。芯の強さがあり半ば自暴自棄でもある不安定なその姿から目を離せなくなる。互いにストレートに言いたいことだけ言う二人のやり取りは面白かった。河川敷で二人で泣くシーンは特に印象に残る。ああいう人間のどうしようもない感情の爆発を見るとつい涙腺が緩んでしまうわ。ダメな人間が改心していく話ってあまり好きじゃないんだけどこの話はすんなり入ってきちゃったな。しかしこの映画それだけじゃ終わらないんだよね。こいつは別に幸せにならなくていい、から段々と幸せになってほしいに変化していき、最終的には死んでしまったけど最後の最後で救われてよかったね、で終わりかと思ったらそこから落としにくる。暴力はそんなに甘くねーんだよとシビアな現実を突きつけられてしまった。でもその通りなんだよね…みんな幸せで終わっちゃダメなんだわ…。あの現場にいたサンフンを思い出したヨニは今後どう生きていくんだろう。その事実をどう受け止めていくんだろう。考えるだけでしんどい。そしてこの映画で真に恐ろしいのは社長。1シーンを除いて全部いい人に描ききったの徹底しててえげつないわ。危うく騙されるところだったけどサンフンをこういう世界に引き入れたのもユニの母親を殺したのもこいつだよね。この話を最後まで観たお前はこいつのことをどう思うんだよって試されているようだった。そしてそんな社長とその後も共に行動していたサンフンも結局はやはりこの映画の原題でもあるただのクソバエだったのか…。再び考えさせられる。暴力というのは根が深いわ。
監督が主演も編集もやってると知って驚いた。しかも当時32歳。さらにこれが監督デビュー作とは。多少わかりづらいシーンや荒々しさがあるのはそのせいだろうけど、その分勢いと情熱が伝わってきて良かったよ。改めてまた観たい。
らんでぃ

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