葛西ロボ

息もできないの葛西ロボのレビュー・感想・評価

息もできない(2008年製作の映画)
4.6
 唾を吐きかけるところから始まるボーイミーツガールというのもすごいな。ふつうならそこを通りがかった主人公が少女をチンピラから助けるものなのに。この作品ではチンピラが主人公。
 韓国語には悪口のバリエーションが多いと聞いていたが、なるほど冒頭からいろんな悪口のオンパレード。しかし、それらは次第に「シーバーラマ」一つに収束していく。シーバーというのは、たぶんファッキンみたいな意味だろう。主人公の口からは二言目には「シーバーラマ」。もはや語尾みたいなもので、いちいち訳されもしなくなる。
 暗い過去を切り離せず、暴力の中に生きる主人公と、今がまさに真っ暗闇の女子高生。息もできない夜に漢江のほとりで二人が流した涙は、本当に涙でしか伝えられないものがあると思わせられる。
 子どもの振り回す木の枝でさえ簡単に人を傷つける。暴力の連鎖を断ち切ることは難しいが、どこかで誰かが終わりにしなければならない。「人を殴るやつは、自分は殴られないと思っている」という冒頭の台詞が、見終わった後によみがえってくる。