甲冑

四季を売る男の甲冑のレビュー・感想・評価

四季を売る男(1971年製作の映画)
4.5
インタビューを読んでいる限り『聖なるパン助に注意』までと今作からはちょっと作り方が違うようで感情を入れるようにしたそう。個人的に今作はイルム・ヘルマンが妻役としてもう一人の主役と言っても良いくらいでそれだけでもポイントが高い。この人はそれ自体何かのプレイのようにファスビンダーに嫌な役ばかりやらされているが、もともと役者でもなくその嫌々やらされている具合がまた素晴らしいという稀有な女優である。

主人公は母親、拘留した娼婦、嫁、娘、浮気相手からの女難…特に体裁に拘る母親がすでにトラウマになっており進路を歪めさせられ過酷な兵役から戻っても邪魔者扱い、果実商人の仕事も恥ずかしくて目も当てられないと言われるなど酷い扱いを受け、心身症の発症から精神も病み破滅する。しかし話はそう単純でもなく、それも要因であるが途中から現れた信頼できる戦友へ仕事も財も妻子も全て譲り渡していく事を自ら選んでいったかのように見える。自害の前には外人部隊時代に拷問を受けるシーンがフラッシュバックするが、これは既に死の恐怖に怯えるよりも死を選ぶ方がマシだと気づいていた事を示唆するものではないかと思う。最後も妻と戦友が一緒になるというシーンで締められどこまでも意地が悪い。
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