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悪人のRのレビュー・感想・評価

悪人(2010年製作の映画)
4.8
人殺し、地位や立場で人を見下す男女、過剰報道をするマスコミ、悪徳商法業者、子供を捨てた母親、一緒に逃げてと願った女…

いろんな悪が描かれる中で祐一だけが「悪人」なのか、見終わった後も、何とも言えない感情がぐるぐると巡っています。

自分の人生を必死に、必死に、ギリギリで生きていて、だからこそ、ほんのちょっとしたことをきっかけに善と悪のバランスが崩れてしまうのかもしれない。地位や立場なんて関係なく、多くの人が余裕のない生活で「孤独」に苛まれている現実。深い部分で人と繋がるという「愛」を見つけることが難しい社会。そんな現代の縮図が描かれていて、恐ろしさや危うさを感じました。

「あんた、大切な人はおるね? その人の幸せな様子を思うだけで、自分までうれしくなってくるような人は。今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎる。自分は失うものがないち思い込んで、それで強くなった気になっとう。だけんやろ、自分が余裕のある人間て思いくさって、失ったり、欲しがったりする人間を、馬鹿にした目で眺めとう。そうじゃないとよ。それじゃ人間は駄目とよ。」

柄本さんの淡々と紡がれるセリフによってその実感が深まりました。

また、生々しい田舎特有の閉鎖感、息苦しさの描写(特に、光代の「国道沿いでずっと生きてる」の下り)は、かなり感じるものもあり、光代の真面目すぎる性格も相まって「孤独感」には痛いほど共感しました。自分の存在意義がわからない毎日を過ごしていた光代だからこそ、祐一との出会いがきっかけで、祐一と同じようにプツンと理性が崩れていったのではないか。

アカデミー賞やモントリオールの授賞式でのきらびやかな姿を見ると、本当にこの人たちが祐一と光代を演じていたのかと信じられない熱演ぶり。感情にムラがあり、焦点が定まっていない不安定な怖さと純粋さをあわせ持つ祐一と、狂ったまでに愛と欲望にのめり込んでいく光代。「お芝居」であるということを一瞬たりとも感じさせられなかったのは初めてでした。演じるというより、本当にフィルムの中の二人は祐一と光代そのものでしかなくて、、あれだけのオーラを消し去ってしまう妻夫木さんや深津さんの凄みも改めて感じると共に、監督の妥協しない演出と、それに全力で立ち向かう演者さんの努力の賜物の作品なんだと強く感ました。

人を本気で想い、愛することができる祐一は「罪人」ではあっても、「悪人」ではない。罪の意識のない増尾くんの方がよっぽど「悪人」だと私は感じました。悪徳商法業者、マスコミにはそれぞれに家族や上司がいて仕方なくやっている人もいるかもしれないと思うと尚そう感じました。

想いがなかなか纏まらなくて悩んでしまうくらい好みの、深い、濃い映画でした。
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