Keiko

悪人のKeikoのネタバレレビュー・内容・結末

悪人(2010年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

「悪人」とは誰のことか。

被害者の佳乃(満島ひかり)は、祐一(妻夫木聡)と関係を持つ代わりに金銭を要求していた上に、都合が悪くなると虚偽の強姦をでっち上げようとした。
増尾(岡田将生)は、佳乃を車から蹴り捨てた挙げ句、彼女の死や、その死を嘆く父親さえも笑い者にした。
悪徳業者は、祐一の祖母(樹木希林)から大金を騙し取った。
祐一の母親は、幼い祐一を捨てた。
マスコミは寄ってたかって祐一の実家に押し寄せ、“殺人犯の家族”を見世物にし、そんな仕事の合間に談笑していた。
光代(深津絵里)は、自首しようとした祐一を止め、「一緒に逃げて」と頼んだ。

そして祐一は、レイプの濡れ衣を着せられそうになり、焦った勢いで佳乃を殺した。

法で裁かれるのは祐一だけだ。
警察に追われるのも、世間に非難されるのも、祐一だけだ。
もちろん、祐一は悪人だ。どんな事情があろうとも、人を殺した事実は変えられない。どんなに不幸な境遇で育ったとしても、どんなに酷い言葉を浴びせられたとしても、殺人を正当化する理由にはならない。
だとしても、祐一だけが根っからの悪人で、それ以外の堅気の人間は皆善人だと言えるのか?

祐一は不器用な人間で、おそらく佳乃のことも本気で好きだったんだと思う。
「レイプされたって言ってやる、誰もあんたを信じない」という言葉は、かつて祐一が「お母さんは帰ってくる」と言ったのを誰も信じてくれなかったトラウマを呼び起こさせたんだろうな。

祐一を善人だとは思わない。
それなりにダメな人間として描かれてると思う。それでも、彼の優しさを1番感じたのは、悲しいかな光代の首を絞めた場面だった。
本気で殺す気なんてなかったはずだ。彼女の綺麗な心に触れて、彼女を道連れにはしまいと考えて、別れるために「悪人」になりきったんだと思う。

台詞にある通り、先に出会ったのが光代だったなら、祐一は「悪人」と呼ばれることもなく、普通に結婚して、普通に父親になっていただろう。
逆に言えば、他の登場人物の誰もが、タイミングによっては何かしらの罪に問われる可能性を持っていた。

妻夫木聡と深津絵里は共に九州出身だからか、かなり自然な方言でリアリティがあった。邦画は基本的に標準語の作品が多い中、こうして全編方言で喋る作品は日常を切り取ったように感じられる。

この映画を見てからしばらく考えている。
「私は善人か?」善人ですとはとても言えない。
Keiko

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