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神様のカルテのsnowbellのネタバレレビュー・内容・結末

神様のカルテ(2011年製作の映画)
2.9

このレビューはネタバレを含みます

これでよい!私は唐突に確信した。これで良いのだ。思えば人生なるものは特別な技術やら才能やらをもって魔法のように作り出すものではない。人が生れ落ちたその足下の土喰の下に最初から埋もれているものではなかろうか。私にとってそれは最先端の医療を学ぶ事ではなく安曇さんのような人々と時間を過ごす事であり、ひいては妻君とともにこの歩を続けることだ。

当たり前のように、ずっと以前から結論はそこにあったのだ。
迷うた時にこそ立ち止まり、足下に槌をふるえばよい。
さすれば、自然そこから大切なものどもが顔を出す。
そんなわかりきったことを人が忘れてしまったのは、いつのころからであろうか。
足もとの宝に気づきもせず遠く遠くを眺めやり、前へ前へとすすむことだけが正しいことだと吹聴されるような世の中に、いつのまになったのであろう。
そうではあるまい。惑い苦悩した時にこそ、立ち止まらねばならぬ。

川をせき止め山を切り崩して猛進するだけが人生ではない。そこかしこに埋もれたる大切なものどもを、丁寧に丁寧に掘り起こしていく。その積み重ねもまた人生なのだ。
(中略)
長い人生だ。いずれまた道を見失い戸惑う時も来るであろう。右往左往して駆け回り瑣事にとらわれて懊悩することもあるであろう。そんなときこそ、私は声を張り上げて叫ぶのである。
「立ち止まり胸を張って槌を振り上げよ!足下の土に無心に鑿を加えよ!慌てずともよい。答えはいつもそこにある。一に止まると書いて、正しいと読むではないか。」

つと振り返れば月下に雪、その先に黒々とそびえる松本城。ささやかな真実をようやく掘り当てた私を国宝の名城が悠々と見下ろしていた。

「神様のカルテ」 夏川 草介著
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