このレビューはネタバレを含みます
人には、生きる道を決める自由がある。
その道をどんなことがあろうとも、ひたすら歩けるだろうか。
この映画の原題は「冬の心」。
人生を輝かせ、時には狂わせてしまう、人によっては生きる意味と捉える人も多い「人を愛すること」。
ダニエル・オートゥイユ演じる主人公は、自分の歩む人生のために、愛さえも枯らしてしまう心の持ち主だ。
彼の気持ちが理解できない人の中には、愛を知る・憧れ、信じている人が多いかもしれないわね。
自分には、アンドレ・デュソリエのように器用に人と立ち回り、営業し仕事とプライベートのバランス、ましてや恋活なんて絶対にできないと信じている。
自分の調律は、自他ともに認める確かな技術で、他の誰にも追随を許さないその小さな世界を信じている。
その世界を守るためには、アンドレ・デュソリエが必要で、その世界を構成する繊細な要素を壊す愛は必要がない、いや、壊しかねない要素には、「冬の心」を持ってして跳ね除けてしまうのだ。
その相手が、誰もが羨ましく思う音楽の才能と美貌と優しい性格の持ち主なら、なお観客は驚くだろう。
「僕と一緒に幾日か」「愛と宿命の泉」ほか、純粋さと複雑な精神を持つキャラクターを自在に演じてきたダニエル・オートゥイユの、抑えたように見えるけれども、実際にはものすごいエネルギーで跳ね除ける動の演技力に痺れたわ。
それにしても、クロード・ソーテという人は、練りに練って熟成させたチーズやワインを10年くらいのスパンで、気心の知れた仲間に振る舞うように映画を作る人ね。
その熟練の新作がもう味わえないのは残念だけど、こうして残してくれたことに感謝したいわ。