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帰郷のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

帰郷(1978年製作の映画)
4.8
戦場を見せず、ベトナム戦争の帰還兵のPTSDを通して反戦を訴えた傑作。冒頭、半身不随になった帰還兵たちが病院で語るシーンで心がえぐられた。実際の帰還兵たちが自分たちの言葉で話している。

戦死か、負傷か、精神を病むか、郷里の日常に戻ることのできない戦争。タイトルの「帰郷」が叶わなかった兵士たち、かなっても命を断つ帰還兵たち。

長いこと公に批判ができなかったベトナム反戦。本作が公開された1978年はベトナムから撤退していた直後で、ようやく公で戦争の是非を評価できるようになったと特典映像で語っていた。名作『ディア・ハンター』も同年12月に公開。こちら『帰郷』がアカデミー賞脚本賞、主演男優賞、主演女優賞している。

この年まで、ベトナム反戦を正面切って伝えた映画はアメリカでは1本も作られていない。調べてみて驚いたことにベトナム反戦映画を1960年代以降に日本が数本製作していた。

そういう背景の中で製作されただけあり、役者の意気込み、気迫が伝わってくる。

1960年代後半が設定年代のよう。大尉である夫ボブ(ブルース・ダーン)をベトナムに送り出した後、妻サリー(ジェーン・フォンダ)は軍病院で傷痍兵を看護するボランティアをしていた。そこで高校の同級生ルーク(ジョン・ヴォイト)と出会う。ルークは下半身不随となり荒れていた。友人の弟ビリーは作曲したりギターを弾いたりして入院していたが心を病んでいた。

夫不在の間に軍病院で出会う帰還兵たちが語る戦争の恐ろしさ。心と体が傷ついて絶望する帰還兵を励まそうとするサリーだが、海兵隊の婦人会は傷ついた兵士を見ようとしない。

不倫もの、恋愛映画だと一言で終わらせられない。
帰る場所も何もかもを失った兵士たちが少しでも希望をみつけ、痛みを癒すのに恋愛の果たす役割は大きかったと思う。

大尉である夫は前線に居ても直接戦うわけではない。指令する役だが、恐怖と憎しみが渦巻く部隊は過激な行動をとり殺戮を止められない。

言葉にできない不安と償えない罪悪感を抱えた人物一人ひとりの心に寄り添った作品。

人を殺したことで自信を失い、その自信を挽回するためにさらに殺人を重ねて英雄となるしか道のない兵士たち。

英雄の軍服を脱げば魂は楽になるのだろうか。

反戦のために戦争映画を観ているので、迫力ある戦闘シーンや残酷なシーンは要らないと確認できた名作です。

劇判の入りかたが絶妙で、ローリング・ストーンズの曲が6曲、他にも名曲が芝居を妨げないようにラジオから流れてきます。主題歌ティム・バックリィの「Once I was」の歌詞が映画そのものでした。

特典映像のジョン・ヴォイトとブルース・ダーンのインタビューがすごくよかったです。ブルース・ダーンは涙ぐみながら語り、ジョン・ヴォイトは結果的にハリウッドから追放されたハル・アシュビー監督への愛を語っていました。

ハル・アシュビー監督作品まだ3作しか観ていないけどとても好きです。
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