しろくま

誰も知らないのしろくまのレビュー・感想・評価

誰も知らない(2004年製作の映画)
3.8
2022.11.22/254/GYAO
〝生まれてきて限りない青空に見つめられたから、君たちは生きる。生まれてきて手をつなぐことを覚えたから、君たちは寄り添う。生まれてきて失うことを知ったから…〟

これは、本作に寄せた谷川俊太郎さんの詩なんだけど、明(柳楽優弥)たちが失ったものはあまりにも多すぎる。大好きだった母親がいなくなり、自分たちだけで生活することになった子ども達。母親から貰ったお金も底をつき、水道や電気も止まり、危機感を募らせる。自分たちでできることは何でもしてきたのに、子ども達だけではどうしようもない現実。そして、彼らは、かけがえのない大切なものを失った。深い悲しみとやり場のない怒りを抱えながら、この先、どうして行けというのか。

谷川俊太郎さんの詩は、次のように続いている。〝それでも明日はあると知ったから、誰も知らない自分を生きる。〟子ども達へのエールともとれるし、子ども達の覚悟ともとれる。

昔は地域の大人が子ども達のことを気にかけてくれていた。しかし、だんだんとそうした関係が希薄になってきている。本作は、実際に起きた事件をモチーフに描かれているが、事件の方が映画よりもっと悲惨で痛ましい。なぜ学校に行かせなかったのかも分かったが、たとえ存在しないことになっていたとしても〝誰も知らない〟でいい筈はない。映画に出てくる大人は何かを感じていても深くかかわろうとはしない。知らないふりを続ければ、このようなことは、どこで起きてもおかしくない事案。映画公開時よりも今の方が更に現実味を帯びているように思えて、観るのがつらかった。
しろくま

しろくま