SANKOU

許されざる者のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

許されざる者(1992年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ワイオミングの小さな町で、一人の娼婦が牧童に切り刻まれた。
幸い娼婦の命に別状はなかったが、保安官のリトルビルは軽い罰だけを与えて二人の牧童を釈放してしまった。
納得出来ない娼婦たちは、勝手に牧童に1000ドルの賞金をかけて復讐を果たそうとする。
実際に彼女らには1000ドルの金を用意する財力はなかったのだが。
その町は銃の持ち込みを固く禁じられており、賞金の話を聞いたビルは決して賞金稼ぎを町に入れまいと豪語する。
その賞金の話を聞いた若者キッドは、ある男の元を訪れる。
その男ウィリアム・マニーはかつては非道な人殺しとして恐れられていた。
しかし彼は結婚を期に心を入れ換えた。
彼の良心を目覚めさせた妻は既に亡く、彼は幼い子供二人と共に細々と牧場暮らしを送っている。
柵の中には病気を患った豚ばかりで、楽な暮らしをしているようには見えない。
彼は二度と殺しはしないと心に誓っていたのだが、貧困から子供たちを救うためにキッドと同行することを決める。
かつての相棒ネッドも加わり、三人は町を目指すことになるのだが。
とにかく華麗さなど微塵も感じさせない泥臭い映画だ。
かつての面影を失くしたかのようにウィルは何度も馬に跨がろうとして振り落とされる。
さらに土砂降りの中を歩いたために町に着いた時には高熱が出て、朦朧とした意識のままビルに滅多打ちにされてしまう。
ウィルも情けないが、近眼がばれてしまったキッドも虚勢を張っているだけの小者感丸出しだ。
そしてネッドも牧童を撃つ直前で怖じ気づいてしまう。
伝説の殺し屋と言われたイングリッシュ・ボブも、実は武勇伝のほとんどが偽物であることが分かってしまう。
賞金目当てで町を訪れたボブは無惨にもビルに打ちのめされ、投獄されてしまう。
本来なら正義の側であるはずの保安官のビルが、この映画の中では一番陰湿で狂っている。
ビルがボブの伝記を記すために同行しているブーシャンプに、銃で自分を撃ってみろと度胸試しを迫る場面は狂気だ。
そして二人の牧童を射殺する場面はどちらも無惨で、鮮やかな手口とは言い難い。
実は初めて人を殺してしまったキッド。
彼は罪悪感に苛まれ、賞金などいらないとその場を立ち去ろうとする。
ウィルは「殺しとは非道なものだ。相手の過去も未来も奪ってしまう」とキッドに語る。
この映画全体に漂う虚無感の正体は、このウィルの言葉に表されているのだと思った。
この映画は誇張されていない、醜くリアルな決闘による死を描いている。
ウィルは出発前に、もう二度とかつての人殺しには戻らないと誓ったはずだった。
しかしネッドが拷問の末に殺され、晒し者にされているという報せを聞いた彼は、非道な人殺しとして復讐のために町に戻っていく。
この映画で唯一派手な場面が、この酒場での決闘だろう。
彼はビルを含め一人で5人の男をあっという間に始末する。
ビルの最後の言葉が「地獄で会おう」だったのが印象的だった。
町を去る彼を撃つ者は誰もなく、娼婦たちはどこか羨望の眼差しで彼を見送る。
誓いを破ってしまったウィルが辿るであろう地獄のような運命を予想したが、ラストのテロップでどうやら彼が子供たちと共に新しい土地で成功したらしいことが記される。
しかしそれが事実なのかどうかは分からない。
決して派手さはないが骨太なドラマで、観終わった後に心にずしりと響くものがあった。
SANKOU

SANKOU