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ミルクの教授のレビュー・感想・評価

ミルク(2008年製作の映画)
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政治的であることをネガティブなものとして捉えていたし、映画は映画、寧ろ個人の物語と、虚構についてこそ描くべき、とかつて思っていた。

しかし、映画というものも、実に多彩な作品、表現方法があって、本作のように半ばドキュメント的な伝記映画、というのは他にもたくさんある。

ガス・ヴァン・サントが本作を撮ったのはスパイク・リーにとっての「マルコムX」なのだと思う。
自身のアイデンティティと、思想。
それが社会的なメッセージとして「伝えるべき」と感じた時。
それはそれで、本作のような作風もまた、世界に開かれた表現の手段なのだなぁと思いながら観ていた。

ハーヴェイ・ミルクという人物が、ガス・ヴァン・サントにとって、社会と政治的に繋がるアイコンであり、ミルクの存在を通してのアイデンティティと社会との戦いを描いてみせた。

具体的には「ゲイ・カルチャー」である。
僕にも感覚的には理解はできない世界。
正直に言って、男同士の性的なじゃれあいや、キスシーンはかなりシンドイと感じる。
しかし、それこそ観るべきとも思った。

生理的な嫌悪感や拒否感に率直である、ということを僕はあまり肯定できない。その生理的な直感の下に、倫理の話にすり替えられ、差別や偏見の温床になることはよくあることだ。

だからこそこれらの挟み込まれるシーンの中に、「ゲイという感覚のリアル」は映像化するべき必要があったと思う。
僕自身だって、ある程度の理解があって、初めて受認して、僕自身の多様性へと繋がるのだから。

理解することを恐れず。
自分が知らないということを恐れず。
理解をしていくこと。
知らないから怖いのだということを知る。

噛んで含んで飲み込むのには努力が必要だけれども、だからこそ、映画にしてみることで、問える意義があるのだと思う。

劇中で、ショーン・ペン演じるところのミルクが「カミングアウト」が大事だ、と言うシーンがあるが、本作自体の構造がとても大きなカミングアウトの様相を呈していたと思う。
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