青二歳

くじらの青二歳のレビュー・感想・評価

くじら(1952年製作の映画)
5.0
1952年大藤信朗によるカラーセロハンによる切り絵アニメーション。セロハンの重なり具合の美しさ。カンヌ映画祭に出品されピカソやコクトーから絶賛されたものらしい。
【あらすじ】
鳥追い笠を被った女が三味をかき鳴らし愉快な船上に、突如襲う嵐。転覆する船、荒波に飛び込む乗客たち。嵐が収まるもまだ波高い海原に浮かぶ船底。そこには1人の女と数人の男たちが残るばかりであった。
絶望のためか狂気に乱れた男たちは女に襲い掛かり、女の奪い合いが始まる。あわや女が襲われるという時、側にいたくじらが船ごと飲み込んでしまう。しかし彼らはくじらの腹の中でもなお争う。逃げまどい泣き崩れる女。
するとくじらは潮を吹き上げ、争う人間たちを放り出す。女はくじらの背に乗せられ助かるが、ひとりの男もくじらの背に降り、なお女を我が物にしようと襲いかかる。
その時くじらは自らの尾で男を海に叩きつける。救われた女は…

戦前は千代紙を使った切り絵アニメーションを多く作り、戦中も創作活動をやめず独創的な作品を作り続けたアニメーター。東映アニメーションができるまで、商業的アニメは確立せず、また今のような分業制もなく、大藤のようなアニメーターがひとりで作り上げる事が多かった。分業制で有名なものは“桃太郎海の神兵”('45)ですが、大抵アニメーターひとりか、せいぜい脚本との二人三脚が多い印象です。こんなレベルをひとりで作っちゃうというのがもう信じられない。
Filmarksジャケが大藤の千代紙アニメで可愛らしいから伝わりにくいでしょうが…カラーセロハンが重なる幻想的なアニメーションによるエロティシズムと暴力に圧倒されます。暴力というのは男たちの欲望だけでなく、大嵐という自然の圧倒的な力と、くじらというここでは超越者の力です。超越者であるくじらの介入によって大団円に持ち込むのはとてもお能的で好きです。意識しているかはわかりませんが、とても能楽らしいクライマックスですね。
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