三樹夫

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマーの三樹夫のレビュー・感想・評価

4.4
文化祭の前日がずっと繰り返されるというループもの。これは今更言うこっちゃないが、『うる星やつら』および『うる星やつら』的なアニメは文化祭の前日をずっと繰り返してるようなもんじゃんという押井守の批評だ。主人公の半径2キロ以内の外のない世界で、あたるの家に仲のいい友達だけで泊まり込みをし、都合の悪いキャラはどんどん排除されていき、都合のいいキャラというか視聴者に嫌われないキャラしか存在しない世界になる。今も続くアニメのフォーマットがメタ的にこの映画で作られている。竜之介がドラマ観ている父親に、「いつも同じもの観ててよく飽きないな」という台詞を言うが、自虐的な台詞になっている。夢邪鬼はアニメ監督のメタファーのようになっており、夢のかけら(アニメ原作)をあっちゃこっちゃといつも探して夢(アニメ)を作るが、ただしやっていることはいつも一緒。しかし辛辣な批評に見えて文化祭の前日の繰り返しのようなものというのは、「待つのが祭り」という諺があるようにそれはつまり楽しさを内包しているということでもあり、ポジティブに評している面もあるように思う。

文化祭の前日をずっと繰り返してるようなアニメは多い。というか文化祭の前日そのものが出てくる高校が舞台のアニメはもうお腹いっぱいになるぐらいある。何故これほどまで文化祭の前日とか高校が舞台のアニメが作られるのかと考えるに、作り手側目線で考えると、制服だと毎話ごとに服のデザイン考えなくていいとか、喫茶店のメイドみたいなコスプレしてる学生を1枚絵の連続で何カットか見せときゃ文化祭の雰囲気作れるから作画負担を少なくできるとか、制作で楽ができるという面はあると思う。ある程度のフォーマットがあることや細かい説明が要らない点でも話を作るのが楽というのもあるだろう。
一方で受け手側というか視聴者側に、文化祭の前日をずっと繰り返してるようなアニメ、高校が舞台のアニメを求める人が何故多いかを考えるに、やっぱりそういうものへの憧れというか青春コンプレックスなるものがあるのかな。
青春コンプレックスは2種類あると思っていて、高校が人生のピークパターンと自分には青春が無かったパターンがあると思う。高校が人生のピークパターンの人間は、高校卒業しても俺の高校時代はこんなにイケてたとか学生生活はこんなんだったとか延々高校時代のこと言ってるようなタイプ。つまりお前の人生は高校卒業以降は何もないのかよという空っぽ人間。大学入学して高校時代のイケてた話が多い奴は結構バカにされるが、何故バカにされるかというと、今現在の状況に馴染めてないからって過去にすがっているというのが見透かされるからだ。大学内に限らず、高校時代のイケてた話する人、学生時代の話が多い人は普通にバカにされると思う。
自分には青春が無かったパターンは、現実と虚構の関係が逆転しているというか、ドラマやアニメの青春ものを観て、文化祭で告白や屋上で告白、海に向かって叫ぶみたいな青春が自分には無かったと思うようなものだと以前より考えている。そらそんな青春ないよ、虚構なんだから。ほとんどの人間にはそんな青春は無く、高校時代恋人いなかった人などいっぱいいる。ドラマやアニメの虚構の青春を観て、これこそが現実の青春なんだと思い、自分には青春が無いと変に青春への憧れを抱いてしまうというのがあるように思う。文化祭の前日(的なもの、あるいは青春)は幻想であり、この映画のように夢のようなものだ。

♨の部屋がカビだらけで、カビが生えるほど途方もなく何周もループしていることが表現されている。サクラと♨に向けてカメラがグルグル回る、2ケツしている2人が下手にoutしまた上手からinしてくるのは、この映画はループしているということが表されている。透過光などを使い光の表現が多用され幻想的というか、幻や夢というのを感じる演出になっている。

この映画は実は芸能人声優の作品であり、鷲尾真知子と藤岡琢也が出演している。芸能人が声優をやって、勿論声優として上手いのに越したことはないと思うが、声優として上手くなくても機能することはある。
鷲尾真知子は声優としては上手くないと思うが、サクラを演じるにあたってはハマっている。『謎の彼女X』の時の吉谷彩子も同じパターンだ。声優としては上手くなくても、そのキャラの声を当てるにはもはやその人以外考えられない。『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』のミッチーも声優として上手くないが、情けない鳳暁生を表現するにあたってはもの凄くハマっていた。声優としては上手くないが、そのキャラを演じるにあたっては正解というパターンがある。
藤岡琢也はほぼ本人パターン。本人そのままで声優もやっているというか、普段の自分の喋りと近い感じで声優をやるという感じ。藤岡琢也のインタビュー動画とか観るとまんま夢邪鬼みたいな喋り方をしている。
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