三樹夫

みんな〜やってるか!の三樹夫のレビュー・感想・評価

みんな〜やってるか!(1994年製作の映画)
1.8
女とやりたいダンカンが車が有ればカーセックスできると思ったり、飛行機のファーストクラスでCAとやれると思いそれには金が要るなと銀行強盗したり、俳優になったり、侠客になったり、透明人間になったり、ハエ男怪獣になったりするのをくだらないギャグで延々見せていくたけしのショートコント集のような映画となっている。ウンコヤシマ作戦などあまりもくだらなくて笑えるというのと無の境地で観るのがランダムにくる。オチは爆笑したけど。撮り方はそれまでのたけし映画と同じ撮り方をしており、前4作と一緒の編集や構図でもの凄いくだらないことをしている。
ある意味たけし版『8 1/2』となっており、たけしの頭の中にあるのは、やりたい、くだらないギャグ、既存の映画の模倣、ウンコということなのか。『座頭市』、任侠映画、日活無国籍アクション、マイケル・ジャクソンの「今夜はビート・イット」のPV、『ゴーストバスターズ』、透明人間映画、怪獣映画などのパロディを行っており、怪獣パートには小林昭二も出ているが、これらはたけしによる批評的な脱構築ではなく、単にくだらないギャグをするためのシチュエーションでしかない。本人曰くお笑いと映画を壊そうという映画。興行的にも批評的にも散々だったが淀長先生は褒めている。
本当はハエ男ではなくモスラになって座頭市と戦い、座頭市が東京タワーを切っちゃったりするオチだったのが、予算がまるっきりなくて止めたと淀長先生との対談で言っていた。

この映画の完成後、たけしは酒に酔った状態でスクーター乗っておネエちゃんの所に行こうとしたら事故り諸星和己が第一発見者となるバイク事故を起こしている。『ソナチネ』が自殺願望がだだ洩れしているような映画のこともあって、バイク事故はたけしの自殺かとも言われているが、本人は事故周辺の記憶がなく覚えていないとのこと。著書によっては自殺かもなと言っていたりする。この映画に関しては映画監督としての自殺と言うこともある。

この映画の前4作は評判は良かったものの、『その男、凶暴につき』は採算ラインに達していないだろう興行収入で、『3-4X10月』から『ソナチネ』は全く当たっていない。この映画も当たらなかったし、その後も『座頭市』まで当たっていない。『菊次郎の夏』は当てようという気概が見える作品であったがヒットはしていない。
たけし映画最大の欠点というか、たけしが映画を作るにあたって長い間できなかったことは娯楽作品を作ることだった。純文学的な作品を作ることは最初からできたが、大衆的な娯楽作品を作ることは、挑戦はしていたが『アウトレイジ』までずっと失敗していた。唯一の例外として『座頭市』はヒットしているが、当てにいこうとすると出てくるたけし映画の欠点が色濃く出てしまった映画だ。
たけしの映画の作り方は引き算によって作られる。また自身の好きなヌーベルバーグやフランス映画の影響と、他の映画を観てこんなことは俺ならしないというやり方を行う。たけしがやらない他の映画がやっていることとは説明過多やあまりにも分かりやすくしすぎるということで、勝新的な言い方をすればトゥーマッチなことはしないというものだ。トゥーマッチとは何かというと、例えばやたらベラベラ台詞が多かったり、ここは笑うところですよと変顔する勢いで分かりやすくさせることなどだ。
『その男、凶暴につき』から『ソナチネ』までは完全にトゥーマッチを排していた。しかし映画はヒットしない。そしてヒットする娯楽作品を作るためにたけしはどうしたかというと、トゥーマッチを自分の作品の中に持ち込んだ。『菊次郎の夏』ではたけし軍団が出てきて分かりやすくここ笑うところですよというように、映画ではなくテレビ的なコントになっているシーンがあり、『座頭市』は映画ではなくテレビ的になるその傾向がより強まっていた。本人もそれを良しとせず、編集の間を詰めたり、俳優の足し算的な演技を上手く調理して『アウトレイジ』でやっと初めてテレビではなく映画的である娯楽作品を撮ることが出来きたが興行収入7.5億とそこまでヒットしなかった。後にDVDで回収などの方法もあるが、製作費の3倍の興行収入でトントンと言われているので、製作費2.5億ならトントンの計算だがおそらく採算ラインは超えていないだろう。その後もたけしの娯楽作品作りの苦悩は続き、『龍三と七人の子分たち』も結構トゥーマッチ気味だったし、下手したら『アウトレイジ』だけしか娯楽映画を作れていない状態だ。娯楽作品を作ろうとすると途端に説明的になってしまう。この映画からたけしの映画作りの苦悩と迷走の始まりのように思う。
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