『アワーミュージック』とそれほど隔たっているわけでもないように思われる。地獄、煉獄、天国の三幕構成、なにより天国篇の多幸感。こどもが群れで走っているとひとりの男児が丸田橋で沢を渡れずにいる。キャメラは彼を無視して集団の方を追うが、突然、その中の少年が足を止めると、先ほどよりも速い歩みで丸太を越えてゆく。少年は泣く男児を掬い上げ、再び走ってゆく。その先に戦争から帰還した父親たちがいる。隊列を捉えた横移動の長回しではフレームに次々と母や子が入っては家族と抱き合い、山では笛吹が平和を謳う。こんなの見せていただいていいんですかと感動する一方で、同じぐらい妙な映画だなと思う。IMDbによると監督はインスはじめ7人、キャメラマンにいたっては8人。それゆえか、洞窟内部から外の水平線を捉えた夕景の逆光など、物語のリニアな進行を飛び越えるように傑出したショットが度々現れる。公開当時、この映画のエキストラに生前参加していた妻を亡くしたある男性は、彼女の顔をもう一度見たくて上映されている劇場に通い詰めたと伝える雑誌がある。事実ならあまりにも凄絶な銀幕対面。