「こんなにやるせなく春風に酔うような夜は、私はいつまでも明け方まで方々歩き回るのだった。」
この一節を映画にしたような作品だった。
作中で朗読される郁達夫の小説「春風沈酔の夜」は、中国では高校の教科書に載っているほどポピュラーな小説なんだそう。
映画のストーリーはあるようなないような。
人と人が混じり合い、ぶつかりあい、言い争い、血を流す。恋い焦がれ、貪るように求め合う。
熱いのに投げやりで、はしゃいでいても物哀しく。なまぬるくてしどけない、春の嵐。
話が合うとか人間的に尊敬できるとか信頼関係があるとかそういうことじゃなくて、よくわからないけどどうしようもなく惹かれて胸が押しつぶされそうになる。とにかく少しでも会いたくて、だけど会ったらすぐにでも抱かれたくなって離れたくなくなる、そんな想いばかりが先走るさまが、甘くて苦しくて快かった。
ジャケットになってるシーンがとても好き。船の上、冷たい風の中。不思議な三角関係の男女が身体を寄せ合う。言葉はなく、それぞれ別の方向をみつめている。
ふわふわと、ゆらゆらと、微熱の時みたいな気分にさせておいて、いきなり冷や水浴びせられたりもする。感情というよりももっと不確かで形にならない「気分」を揺さぶられた。
<追記メモ>「きみの鳥はうたえる」に似てる。こっちのが先だけど。どっちも好き。