メガネン

X-MEN:ファースト・ジェネレーションのメガネンのレビュー・感想・評価

4.7
ミュータントを主役としたX-MENシリーズは子どもの頃アニメで観ていて、熱中したものだ。
あの頃は、メンバーの着ているいわゆる"タイツ"的な衣装が変だとは思わなかったが、MCUではキャップがタイツに言及するシーンがあるので、あまり好意的に受け取られない要素らしい。
一方で、ウルヴァリンにはローガン、サイクロップスにはスコット…と言った本名が存在していることを知ったのもここ十数年の話だ。
そんなX-MENのオリジンを描いた本作は、二つの面でとても面白い映画になっている。

まず一つは、サイファイとしての面白さだ。
ミュータントを突然変異と位置付けつつも、その変異によってもたらされる能力は、超能力のそれに等しい。言わずもがな、超能力はサイファイが扱う大きなテーマのひとつで、個人的には長年魅せられてきた題材だ。バビルⅡ世から絶対可憐チルドレンまで様々な作品に触れてきたが、どの作品も超能力をどのように扱い、作品のテーマとしてどのように位置付けるかはそれぞれ違っていて、そこが面白い。
X-MENでは、超能力をかなり社会学的なテーマと絡めて物語ることに成功しているように見える。具体的に言えば、レイシズムをテーマに語られることが多い。作品内でのミュータントは、現実世界におけるLGBTQ+やニューロダイバージェントなどと対偶され、いわゆる社会的マイノリティの一種として差別の対象として描かれる。超能力も「gift」として扱われているように、シンプルに賛美されるパワーとは少し違っている。本作ではこの辺の自身の能力に対する葛藤を、主人公の二人、チャールズとエリックが相対的に描き出している。チャールズとエリックがレイヴンに関わる様子は根本的な部分では同じなのに、全く違う表出をしている。この辺がリアルで面白い。
「ねぇ、ビースト。ミュータントは誇りよ。」と言うレイヴンは、自身の異形に徹底して否定的であったそのビーストことハンクと対比的に描かれている。
いわゆるマイノリティのありかたを、迎合主義的に捉えるのか、急進的に捉えるのかは、常にあらゆるマイノリティのフィールドにおいて語られてきたテーマで、それを描くことは常にX-MENにおけるひとつのマニフェストのようなところがあるのかもしれないが、そう言う演出が説教くさくなく、彼らにとっての非常に身近で切実な重大事であることがよく描かれている作品だと感じた。
サイファイの面白さは、そこにある超現実性が現実性へと如何に還元されるのかと言う、まさに演出的性質の良し悪しに左右されるため、本作はサイファイとして面白いと言えると思うわけ。

もう一つは、よりシンプルに多様な超能力の表現と演出の洗練度。これまでのX-MENシリーズで培われてきたものがより説得力ある表現で再定義されている。
まさにファーストジェネレーションである、諸キャラクターがその能力をトレーニングするシーンはどれも着眼点が面白くてリアルだ。
もちろんここで、チャールズがエリックのトレーニングのために用いる、巨大電波望遠鏡を動かすと言うミッションのシーンを上げる必要があるだろう。
エリックは言わずと知れた世界一有名なマグネキノ(電磁気力操作能力者)であるが、この時はまだその超絶的なパワーの本質を掴んでいない。遠隔で巨大質量の金属を動かすだけのパワーを発揮するために、チャールズはエリックの過去をそのテレパシー能力で刺激し、彼の心の豊かさに言及する。
この映画はエリックの過酷な運命から始まるので、ある種エリックの映画ということもできるわけだけど、このトレーニングを経て、エリック・レーンシャーはマグニートーへと開眼するきっかけを掴んだはずだ。そして、すなわちその人生全体にわたって相互に認め合いながら対立し合う、プロフェッサー・Xとマグニートーの誕生という意味でも、感動的であればあるほど、皮肉で悲しい演出だったように思う。しかし、やはりそうした演出ができることは素晴らしい。
また、ヴィランたちの能力も魅力的な演出に溢れている。特にテレパスでもあり、ダイアモンドフォームの使い手でもある、エマ・フロストの扇情的ながらも優美な演技は印象的だった。というか、チャールズと同等のテレパシー能力を持っているのに、ダイアモンド化の能力まで持っているなんてズルいわ笑

以上二点から、僕はこの作品をX-MENシリーズの中でも最高傑作だと思っている。
しかし、ここで、デッドプールシリーズについてはその範疇に含めないことを明言しておこう。
ミュータントという意味ではテッドプールも彼らの一部なのかもしれないが、もちろん映画の主旨やテーマは明確に違うし、デップー自身も自分の映画内でX-MENとの直接的な絡みがないことについて実に彼らしいのやりかたでぼやいて見せているわけで、つまるところデッドプールは別格だ。