青山

友だちのうちはどこ?の青山のレビュー・感想・評価

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
3.7

今、映画ファンの間でプチブームのキアロスタミ。イマジカで特集されてたので観ました。たぶん人生で2本目くらいのイラン映画。
いわゆるジグザグ道3部作の1作目ですが、この3部作自体が後に偶発的に出来たものなので、本作自体は単体の映画として見られます。


内容はタイトルの通り友達の家を探すというシンプルすぎるもの。
小学生の少年が主人公。冒頭、教室で隣の席の友達が宿題をノートに書いてこなかったことで先生にど叱られる。「次ノートに書いてこなかったら退学にしてやる!」と。今の日本だったらこんなん言われても先生の冗談というかただの脅し文句だと思いますが、この規則に厳しい国ではガチにしか聞こえなくて嫌な感じがします。
さて、主人公が家に帰ると、なんと自分のカバンにさっき叱られてた友達のノートが。「返さなきゃ明日友達が退学になっちゃう!」と大慌て。
この題材選びがめちゃくちゃ上手いですよね。小学生の頃って我々ですら宿題忘れたりしたら顔面蒼白もんですからその緊迫感はわかるし、ましてやこんな厳しい国ですからね......。
さて、慌てた主人公はママに「友達にノートを返さなきゃ」と言いますが、ママはまるっきり聞く耳を持たず「宿題しなさい」。「でも退学に......」「宿題しないさい」「遊びにいきたいわけじゃないんだよ」「宿題しないさい」......なんて、宿題しないさい攻撃が誇張ではなく十数回続くんですね。ここの嫌〜な空気感もすごい。

で、そのあとはなんやかんや友達の家までノートを返しにいく、という流れになるのですが、友達の家がどこか分からない。しかも、とりあえず分かっている範囲では自分の家からめっちゃ遠い地区らしい、と......。
そのことに、ここまでの大人たちの嫌な感じも相俟って、この単純すぎる冒険に異様な緊迫感が出てきてまるでサスペンスみたいにハラハラしながら見れるんですね。
しかも、この道中で出会う大人たちもみな一様に嫌な感じ(特に主人公の祖父)。文化の違いなのでとやかく言う筋合いもないですが、大人が純粋に理不尽なので日本に生まれて良かったという気分になります。「子供は毎日殴れば礼儀正しくなる。たとえ元から礼儀正しい子でも毎日殴るのがポイントだぞい!」とか普通に言いますからね。なんてこったい!
ただ、人は嫌な感じでも映像は綺麗。石と木で作られた町並みは、なんせイランですから普段は映画ですらなかなかお目にかかれない風景。町外れは草と林ののどかな景色と、本作を含む3部作の呼称となっている""ジグザグ道""が印象的。

そして、そうこうするうちに日も暮れていき、夜の場面はもう「今から帰ったら家でめっちゃ怒られるだろうな」というぞわぞわ感が終始漂っていて気が気じゃありません。しかし、意外にも夜の場面以降はむしろ人の暖かさに触れる機会もあり、この小さな大冒険の結末にはじわっと感動しちゃいました。そして、あっさりしていながらこれ以外にありえないラストシーンが秀逸。

あまりにシンプルでありながら、それゆえに色々素材の味が楽しめる感じのいい映画でした。
青山

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