がちゃん

竜馬暗殺のがちゃんのレビュー・感想・評価

竜馬暗殺(1974年製作の映画)
3.7
幕末の土佐藩士で、倒幕および明治維新に大きく関与した坂本龍馬が暗殺される慶応3年11月15日までの3日間を描いた作品です。

学生運動も次第に閉塞していき鬱屈していく若者たちの心情を幕末に置き換えた作品ともいえるでしょう。

大政奉還をめぐる混乱から、あらゆる刺客から狙われるようになった坂本龍馬は、京都近江屋の土蔵に身を隠していた。

志は近いものがあるが、手法の違いにより龍馬を暗殺しようとする中岡慎太郎や、薩摩藩士、中村半次郎の配下の一人で、竜馬の暗殺を企んでいる右田らとも奇妙な友情を育む竜馬だったが・・・

60年代後半から、過激な手法で革命を叫んでいた若者たちが歩き疲れてふと立ち止まり、それまで流してきた血が無意味だったと悟る心境と、本作の持つ虚しさが共通であることに気付くのに、今の時代ならば難しいことはない。
だが、まだ熱が冷めきっていない制作当時では、受け入れるのを拒んだ者もいただろう。

だが、劇中で原田芳雄扮する坂本龍馬が、「今の権力者を倒しても、新しい秩序の中でまた新しい権力者が生まれる。そして、またそれを倒そうとする勢力が次々と生まれてくるのだぞ」というような事を中岡慎太郎に言い放つシーンで、その拒んだ者たちの空想ともいえる理想を完全論破する。

そして、このセリフの持つ意味と本作のテーマは、永遠に繰り返される醜き権力闘争への皮肉として、観た者の心に刻まれる。
民衆の「ええじゃないか」の歓声は、今も昔も変わらない無責任な民意だ。

黒木和雄監督は、16ミリのモノクロ撮影を用いて、時にサイレント映画のような字幕を織り込み、記録映画のような効果を狙っているのがわかる。
あまりにも劇映画的な演出だと、メッセージが直接的過ぎてしまうため、それを避けたものと推測するのだが、どうなのだろうか。

龍馬を演じた原田芳雄、中岡を演じた石橋蓮司は、女装までして見せ好演だが、薩摩藩士の刺客松田優作が、特異な存在感を見せる。
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