フロントスカイ

竜馬暗殺のフロントスカイのレビュー・感想・評価

竜馬暗殺(1974年製作の映画)
4.9
高校生だった公開時に鑑賞し、同じ黒木和雄監督の『祭りの準備』と合わせて映画鑑賞を趣味とするきっかけとなった作品の一つ。多感なあの頃鑑賞した映画には思い入れある作品が多いような気がする。

映画は、暗殺されるまでの三日間における坂本竜馬と中岡慎太郎の行動に焦点を当て、彼らを取り巻く人々の様々な思惑や葛藤も絡めて描く変則的異色青春群像ドラマ。

当時、自由な解釈と斬新な演出と展開で映画のもつエネルギーと面白さに衝撃を受けたことが忘れられない。
16ミリの粒子が見えるモノクロの荒い映像は、荒々しく野望に満ちた若者たちの生き様に異様な生々しさを与えていて、不穏な音楽と時折入るテロップ字幕、軽妙なタッチの昔々の無声時代劇の雰囲気を醸し出す。
圧倒的な存在感で生き生きとした原田芳雄の演技は、竜馬そのものに見えてくるほど凄いから驚きである。
対して竜馬と微妙な関係性の盟友、中岡慎太郎を演じた石橋蓮司も神経質で不器用な感じが絶妙だった。
松田優作、桃井かおり、中川梨絵もそれぞれ個性ある役を見事に演じていた。
高校生だった公開当時は思いもしなかったが、今考えると内ゲバ等過激に変化した学生運動が沈静化していった時代と重なる。映画が描く維新直前の時代は公開当時の世相を反映したものだろう。

黒木監督と言えば、戦争レクイエム三部作も素晴らしいが、青春群像劇『祭りの準備』とともに、黒木監督の最高傑作と言える一本だと思う。