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エレファントのhatthiのレビュー・感想・評価

エレファント(2003年製作の映画)
4.5
普通の日常が一番怖い。
1999年に起きたコロンバイン高校銃乱射事件を元にしたお話。
「明日、君がいない」のベースとなった作品。
淡々とそれぞれの人物の何気ない日常を描くことで悲劇とは日常生活にいきなり訪れるものであると、若いからといって命は永遠では無い。すぐそこに死が迫っている毎日である。改めて命の大切さ、普通に生活できるということが奇跡であることを知った。


この映画は映像表現、構成、音楽が本当に素晴らしかった。
雲の流れで時間を表現したり、ピントで主体となる人物の感情、思考を表現したりととても勉強になる映画だった。
主体となる人物によって少しずつ少しずつ表情やセリフが違うのも面白かった。
時系列はバラバラで何度も同じシーンになったりと繰り返すたびに新たな発見があったりと面白かった。

また背中からのショットが多いため顔がいまいち覚えられなかった。これが狙いだったら素晴らしい。顔があまり映らないことで主人公がどの人物かよく分からない。そのため全員が事件の犯人のように感じてしまう。そこから日常の怖さを感じた。

この映画ではなぜこのような事件を起こしたのか?などは全く描かれていない。疑問も答えも描かれていないため余計考えさせられ、より日常が怖くなった。



題名の「エレファント」の意味については
インドの6人の盲目の人が象に触った寓話を指してるのではないかと、、

この寓話は盲目の6人がそれぞれ象の鼻や牙など別々の一部分だけを触り、その感想について語り合うが、触った部位により感想が異なり、それぞれが自分が正しいと主張して対立が深まるが、何らかの理由でそれが同じ物の別の部分であると気づき、対立が解消する、というものだ。
この寓話は「三度目の殺人」にも出てくる。
意味は、物語の一部や人物の一面を知っただけで全部を知ったように錯覚してしまう。という意味だ。
つまり、この映画は彼らの一面であり悲惨な事件の一部だ。この映画だけで彼らが酷いやつだと決めつけないで欲しい。物事を考えるときは広い視野を持って欲しいといった監督のメッセージが込められているように感じた。また、とても大きいのに見えていない、見ていない。いじめという大きな問題、見えている問題なのに無視しているという意味のようにも感じる。
象のようにそれぞれの高校生活に触れることで原因という全体像を浮かび上がらせていた。


「エレファント」にはもうひとつ意味があるように感じた。
それは象の性質だ。
象は一度記憶したことは忘れないと言われている。
また調べてみると単語のElephantには記憶力が良いという意味があると分かった。
このことからいじめられた主人公はやられたことを忘れない。そういった強い恨みが込められているように感じる。



日常に突然現れる悲劇。
観る価値はすごくある映画だと思います。
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