イルーナ

ジャッキー・ブラウンのイルーナのレビュー・感想・評価

ジャッキー・ブラウン(1997年製作の映画)
3.5
90年代のタランティーノ作品で、唯一観ていなかった本作。
実際、彼の作品群でもあまり語られてる印象がない。
ですが、ポスターなどビジュアル的には痛快クライムコメディ!みたいなノリ。
さらにタランティーノのアイドル、パム・グリア主演ということで、なおさら痛快娯楽作というのを期待するというもの。
というわけで、いつもの小粋な無駄話にマニアックな小ネタいっぱいの作品だろうと思っていたのですが…

蓋を開けたら、何と本作のテーマは「中年の危機」!
登場人物の多くが人生半ばを過ぎてて、色々な苦労や悲哀を感じさせる。
前科持ちのためエリートCAから転落し、業界最底辺の零細航空会社にしか勤め先が見つからなかったジャッキー。
生活のため裏稼業として運び屋をやっていたが、警察に逮捕されて再び職を失う危機に……
「命を失うことより職を失うことの方が怖い」というのは、歳を重ねてから観ればグサグサ刺さりまくる境遇。
さらに演じたパムの人生も踏まえて考えると、色々心に来るものがあります。
(彼女はブラックスプロイテーション映画のブームが過ぎた80年代は低迷期を過ごし、さらには余命18カ月と宣告されるほどの重い乳癌を患っていた)
いつもの無駄話も、バイオレンス描写も、時系列いじりも大変控えめ。
ビックリするほど落ち着いた作風なので、おそらくタランティーノ作品でも屈指の異色作ではないでしょうか。
中でもロバート・フォスター演じる保釈屋マックスがとても魅力的。
一見平凡そうに見えても、実際は様々な罪人を相手にしただけあって大変有能。
その一方で、ジャッキーに惚れて彼女が好きなグループの曲にハマってしまうという純情っぷり。
その人生の酸いも甘いも噛み分けたことを感じさせるその顔立ちと演技は、誰の心にも残るはず。
他にも、サミュエル兄貴のオデールは切れ者の悪役と思いきや、周りから陰口叩かれるわあっさり見捨てられるわでその人望の無さには落涙を禁じ得ないレベルだし、デ・ニーロのルイスに至ってはまさに名優の無駄遣いレベルのダメダメっぷり……w
(真っ暗闇の中カメラがどんどん上昇して俯瞰視点から銃声が二発!という、保釈した部下を騙して殺害する所の演出は面白かった)

ですが本作、はっきり言って全力でやりたい放題やった『キル・ビル』とは正反対のベクトルで好みが分かれる作風。
大人の魅力と悲哀を描くことに特化した分、他の作品にあった派手な見せ場が一切ない時点で、どうしても地味目なイメージがついてしまうのは仕方ないこと。
個人的にそれ以上にキツかったのは、会話が無駄話どころか重要な話ばかりで、情報量がとにかく多い所。
今回はマジでちょっとでも気を抜いたら「???」になりかねない。
現金受け渡し作戦の所は「このシチュエーションはこういう解釈でいいん……だよね?」がいっぱいで中々飲みこめず、何度も観直しました。
司法関連扱った作品に馴染みがなかったり、計算弱い人はついていくの、かなり大変かもしれません……
中には麻薬の件みたいに、ロクに説明されないままガンガン進む部分もあるのでなおさら。
『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』の無駄話は登場人物の掘り下げになるのはもちろん、物語に全く関係ないからこそ面白いし気軽に聞けるもの。これってすごくありがたいものだったんだな……とひしひし感じました。

アニヲタwikiにまとめた記事
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