もしも自分が天才だったら...
あんなことやって、こんなふうになって...
みたいなことを妄想してると楽しかったりする時がある。公開当時、映画館を出るやいなや友達同士で「俺が天才だったら論」を言いまくってたのを思い出した。感動作としての余韻に浸ることは一切無く、この天才の使い道はもったいなさすぎる!の一点張りだった。あとはせいぜいタイトルの Good will hunting について、こんな文法おかしいだろと思ってたら人の名前だったのかよってアホな話しをしてたくらいなもんで。正直言って、なんでこんなのが評価高いのかと不思議でならなかった。
でも、20年以上ぶりに観返してみたら、目線が違うところにいってて、印象が変わってきた。このクソガキのウィル・ハンティングをどうやって窘めていくんだろうかと考えながら、名優ロビン・ウィリアムズが演じた心理学者(カウンセラー、セラピスト)のショーンの側で見つめていくうち、ようやくこの主人公ウィルの心の内に関心がいくようになってきて、はぁー何てよく出来た話しなんだよって思えるようになった。
脚本は、今や大スターのマット・デイモンとベン・アフレックの共作。そこが凄い。
(ちなみにこの2人とともにベンの弟ケイシー・アフレックも出演しているが、そう言われてもわからないほど初々しさに溢れてる)
ウィルもショーンも過去の体験から心に深い傷を負っていて、なかなか前に進もうとできないでいるが、そんな2人が次第に心を通い合わせて対話を重ねていくうちに、お互いがお互いのことを理解し合うようになり、各々が今の自分と向き合うようになって、ようやく未来への一歩を踏み出していくというお話し。言ってみればただそれだけのシンプルな展開なんだけど、その心理面の描き方がとても繊細なところを突いていて、これまた屈折してしまった男の歯痒い部分というやつに引き寄せられてしまって、もはや人ごととは思えず共感せざるを得なかった。
天才ゆえの苦悩ではなくて、無知ゆえの煩悩
外の世界を恐がり、安全な場所から抜け出せない
心を閉ざしたままの臆病な男
そんな主人公のキャラクターを印象付けているのがエリオット・スミスの楽曲。今は亡き人、もっと評価されるべきアーティスト。グランジ/オルタナの香りがプンプンとして、陰鬱で暗いんだけど、どこか希望をも感じさせてくれるところがあって、ストーリーにばっちりハマってると思う。『タイタニック』のあの曲が無かったらオスカー獲れてたのに。でも、逆に一番じゃない方が良かったのかなって気もする。蓮舫さんが言った意味でじゃなくて、分相応のかっこよさという意味で。生き様には人それぞれの輝き方があるんだってことを考えながら、この物語とこの音楽を聴いていると、その共鳴が心地良く感じられる。