まや

トニー滝谷のまやのネタバレレビュー・内容・結末

トニー滝谷(2004年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ずっと前から観たかった作品。映画館で見られて嬉しかった。

とてもとても好きな作品で、今後何度も見返したくなる作品だった。孤独をなぞるように静かに物語が展開していく。

孤独が当たり前の主人公。家族背景からしてそれが自分にとっての普通で。だけど、ある1人の女性に出会ってから人といることの楽しさや暖かさを感じ結婚する。この結婚したときに主人公が人との繋がりの良さを知ってしまうと前の孤独が当たり前だった自分の感覚がわからなくなってしまって1人になるのが怖いというセリフを言うが、これがわかりすぎて涙出た。

人と一瞬でもつながれる瞬間があると自分が感じることができるのはとても幸福だと思う。でもそれがある日突然なくなることだってある。そうなった時に以前の自分を思い出せず孤独の怖さがさらに強くなってしまうのだ。だけど、その怖さを慣らして生きているから主人公の気持ちが痛いほどわかった。

奥さんとなった彼女は、主婦として完璧だったが一つだけ服を買いすぎる点が主人公は懸念している。それを止めるようにそれとなく言って、それを守ろうとするけど、結果的にそのせいで彼女は命を落としてしまう。

そのあまりの悲しさに耐えきれずに、亡くなった彼女の服をきてもらうことで徐々に彼女がいなくなった真実を慣らしていきたいと主人公はバイトを募集する。それでやってきた彼女は事情を聞いて承諾する。衣裳部屋にある服を試しに着るがそこで突然泣き出してしまう。このシーンもすごく印象的。何も知らないバイトの彼女はその服と空気感に当てられて訳もわからず泣いてしまうのだが、それくらい人の死って残された側が感じるまとわりつく冷たい空気みたいなものがある気がする。

そこから、また、主人公は1人で生きていくことを常としていくが、それは前と違って彼女と過ごした思い出がある。それを抱えながらも孤独に生きていくのだ。(でも何もないよりも自分の中でとても大切にしたい思い出ができるからそんな孤独も耐えられるような気がする)

どこまで行っても人間は孤独だ。だけどその孤独の心地よさと辛さと静けさと冷たさとその全てが詰まっている詩的な作品で本当に今の自分に寄り添ってくれる作品だった。物語も語り手がいて、語りながら進んでいくところからも文学的な印象が強くまた、音楽もその孤独さを綺麗になぞってくれる美しいものだった。
まや

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