半兵衛

天使の恍惚の半兵衛のレビュー・感想・評価

天使の恍惚(1972年製作の映画)
3.6
映画を純粋に楽しむというより、フィルムに刻印された製作当時の熱気を堪能するような一作。テロ活動に勤しむ主人公たちは今となっては全く共感できないけれど、時代を覆そうと本気で考えていた若松孝二監督のパワーがライブ感を伴って伝わってきて段々と妙な熱に浮かされていく。ラストの山下洋輔のフリーキーな演奏とテロ活動を荒々しく捉えた映像も酩酊するような気分にさせてくれる。

反政府運動のためテロ活動を行う十月グループの組織と組むことを拒否するアナーキーな姿勢はどことなくピンク映画で少人数体制で反権力を叫んできた若松孝二のスタイルが被さってくる。あさま山荘事件直後にこの映画を発表したというエピソードも凄いけれど、それだけ若松監督が時代の空気に鋭敏だったということなのかも。ただし若松プロの優秀なスタッフが携わった最後の作品でもあり、その後の足立正生をはじめとするメンバーの離別とともに若松監督はピンク映画の一監督として黙々と仕事をして10年後一般映画のフィールドに移行して製作した『水のないプール』で再び注目されることに。

横山リエが歌う主題歌(途中で降板した安田南説も)『ここは静かな最前線』が名曲、正直言って劇中のどんな台詞よりも雄弁に主人公たちの心情を語っていた。

吉沢健の後ろ姿で終わるラストはどんなことがあっても映画で歩み続ける監督の決意が感じられる、そして17年後若松プロに出入りしていた北野武が『その男、凶暴につき』で秋山道男と吉沢健を登場させることで若松監督へのオマージュ(と同時に時代の非情な変化)を捧げる。
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