ゆうし

ヤンヤン 夏の想い出のゆうしのレビュー・感想・評価

ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)
4.4
タイトルに騙されてほのぼの系センチメンタル映画かと思ってたけど、映画人の遺作にふさわしい、いかようにも語りうる深みのある傑作だった。

オールナイトのラスト一本で、三時間の長編で、特にエンタメなわけでもないのに、観る人の集中を最後まで途切れさせなかったこの映画の人を惹き付ける力は間違えなく本物。

(登場する時間の比重的な意味で)主人公はヤンヤンのお父さんのNJで、サブ主人公は娘のティンティン。邦題になっているヤンヤン少年は登場してる時間は少ないんだけど重要な台詞や暗示的なシーンを作り出している、いわば無言の狂言回し的ポジション。

ストーリーはヤンヤンの叔父さんにあたる人物の結婚式から始まる。そして人物紹介が済むと少しずつ彼らは問題を抱えていることが明かされて、その展開と新たなトラブルの連鎖が基本の筋書き。

といっても全体としてのメインストーリーがあるわけではなく、あくまで断片的な出来事の積み重ねとして映画は進行して、最後はある人物の葬式で幕を閉じる。

そんなオムニバスのような物語をみせられて、僕たち観客はそこから何を読み取ればいいか迷うわけなんだけど、そこでヤンヤン少年の発言や行動がキーになってくる。

彼は他の大人たちがそれぞれ感情的に行動して悲劇や喜劇や不条理に巻き込まれている間、メインストーリーからは断絶した形で、彼の通う小学校の中でいじめに遭ったり写真を撮ったりある女の子への恋心に気付いたりする。そこでの彼の言動には、一定の哲学が貫かれていて、ある意味作中で一番ぶれが少ない人物といえる。

そして葬式のシーンで映画が終わり、彼の最初にして最後の長台詞を聴いたとき、ふとこの映画の真意に気付く、という仕掛けになっている。

それを殊更に語ることはしないけど、ヤン監督の人生に対する回答のようなものが立ち上がっていると思う。

とにかく超いい映画。とてもお勧め。
ゆうし

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