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プロメテウスのtanayukiのレビュー・感想・評価

プロメテウス(2012年製作の映画)
3.9
ウェイランド・インダストリー(のちにウェイランド・ユタニ社となるのは、どこかの時点でユタニ・コーポレーションと合併したかららしい)の創業オーナー、ピーター・ウェイランドは、老いとは無縁のアンドロイド「デヴィッド」の生みの親であり、みずからも若さを取り戻したいという欲にかられていた。彼は考古学者エリザベス・ショウとその夫チャーリー・ホロウェイの「エンジニア=宇宙人が人類を創造した説」に肩入れし、巨額の資金を投じてエンジニア探索の旅に出る(当初は姿を隠していた)。だが、仮にエンジニアが創造主だとして、彼らがピーターの望みを聞き入れる可能性なんてあるんだろうか? そもそもそこに、かなりの論理の飛躍がある気がするんだけど???

一方、「人類=エンジニア起源説」の主張者であるドクター・ショウはこんなことを言っている。

モヒカン刈りの地質学者ファイフィールド「あんたらが洞窟で絵を見つけ、それで我々はここに?」
ショウ「ノー、絵じゃない、招待状」
ファイフィールド「誰から?」
ショウ「私たちはエンジニアと呼んでる」
ファイフィールド「エンジニア? どういう技術を?」
ショウ「彼らは私たちを創った」
生物学者ミルバーン「バカな。その説を裏づける証拠がどこに? 過去3世紀のダーウィン説を覆す気なのか? どんな根拠が?」
ショウ「根拠はないけど、私はそう信じてる」

おいおい、あんたは科学者じゃないのかよ、というツッコミが聞こえてきそうだが、サイエンスを尊ぶ心も信念の1つには違いないとしても、SFと信仰の問題をごっちゃにすると、とたんにニセ科学のにおいが漂ってきて、胡散臭くなる。SFにリアリティを求める向きには「ダーウィンの進化論の否定? おまえはインテリジェント・デザイン、形を変えた一神教のシンパか?」となって興ざめだし(自分はこのクチ)、物理法則なんて知ったこっちゃない、だってこれはエンタメだぜ、という人にとっても、「神か人か」「創造主の御業か自然選択の結果か」という哲学的な論争は堅苦しく、それほどアピールするとは思えない。生命はどこから来たか(種の起源)というダーウィン以来、人類最大の謎を突き詰めることなく、「先行人類の落としだね」と安直な結論に走ってしまうことのもったいなさを感じた時点で、たぶん、自分はリドリー・スコットにとって「いい観客」ではないのだろう。

昔から疑問なのは、仮に遺伝子(DNA)が宇宙由来だとしても、なぜ、これまで明らかになった生物進化の歴史を全無視して、「人類は誰かの創造物(=ホモ・サピエンスは最初からホモ・サピエンスとして誕生し、別のなにかから進化したわけではない完成形)」と決めてしまえるのか。神が人類をつくったのだとしたら、絶滅した痕跡が明らかなホモ・エレクトスやネアンデルタール人などの先行人類は何なのか。神の失敗作? 全能の神なのに? 

いやいや、エンジニアはホモ属の種を地球に送り込んだだけで、そこから先は自然淘汰が働いたんだよ、とうそぶく人もいそうだが、ホモ属の進化は受け入れるのに、ネズミからサル、サルから類人猿への進化を受け入れないのは理屈が通らない。ホモ属だって、DNAのかなりの割合をほかの生物と共有しているのだから、そこに関係がないというのは無理がある。

そうした根本的な疑問はこの際、目をつむるとしても、やっぱりわからないのは、エンジニアが仮に人類の祖先だとしても、彼はなんのために地球に人類の種をまいたのか、コミュニケーションもできないような特殊な形で。別の惑星に子孫を産み落として生存圏を広げることが生存戦略上、意味があるとしても、それが連絡を途絶する理由にはならないのはいうまでもない。

いやいや、人類というのはエンジニアの劣化コピーにすぎず、そもそも対等な関係ではない。エンジニアはピーターの願いを聞き入れるどころか、いきなり殺してしまったので、自分たちの作品である人類に親愛の情などもっていないようだ。手慰みに人類を創造してみたものの、すぐに飽きて放置したか。それとも、やがて滅ぼすために、わざわざ育てた??? そんな手間かける必要ある? 

さらに、エンジニアは、人類をつくっただけでは飽き足らず、エイリアンのもととなった病原体をみずからつくっていたという。それはなんのため? エンジニア同士の殺し合いで使う生物兵器として? それとも、別の惑星に戦争をしかけるため? そのターゲットに地球も入っていたんだとしたら、自分たちでつくって自分たちで滅ぼすってこと? なんでそんなことするの???

で、エンジニアはみずから生み出した病原体に冒され、その病原体が自己増殖を始めてエイリアンになっていったらしんだけど、映画の冒頭では、エンジニアのDNAがもとになって病原体ができたみたいに描かれていた。にもかかわらず、体液が強酸の外骨格の生物で、脱皮によって成長し変態をくり返すエイリアンと、人類の祖先であるエンジニアは、遺伝的にはかなり遠縁種のように見えるんだけど、それってどういうこと? 

エンジニアは次作の「コヴェナント」でみずからつくった病原体に滅ぼされることになるわけだけど、そんな危ない生物兵器を開発していたということは、エンジニアの世界も人類と同じく、血で血を洗う抗争が絶えない地獄の世なの? だとしたら、少なくとも神様みたいに敬うのって間違っているよね??? おれらと同じどうしようもない生き物じゃん!

てな感じで、次々と疑問が浮かんできては頭の中をグルグル回ってしまって、映画そのものを楽しめない。映像の質感とかは、さすがオリジナルの監督リドリー・スコットだけあって、かなり好みなんだけど。なんとも惜しい作品だ。

△2024/09/10 Apple TV鑑賞。スコア3.9

キリスト教世界の人たちは生命の奇跡を偶然による自然選択にまかせるのがよほど嫌なのか、人類以外の先行文明による生命の創造か(形をかえたインテリジェントデザイン?)、未来人の手によるものととらえたいみたい。

→ 『プロメテウス』リドリー・スコット自らエイリアンの世界を復活させた理由と、ギーガーとの思い出|CINEMORE(シネモア) https://cinemore.jp/jp/erudition/1682/article_1683_p1.htm

△2017/09/13 iTunes登録。スコア3.9
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