本の人

そして友よ、静かに死ねの本の人のレビュー・感想・評価

そして友よ、静かに死ね(2011年製作の映画)
4.0
私は普段フランス映画を観ない。というのも、私はフランス語を知らないからだ。言語の違いで観る映画に垣根を設けて良いのか?という批判を浴びそうだが、私はなにも、フランス映画に大作がないから観ないのではない(個人的に『モンテーニュ通りのカフェ』は個人的に映画史に残る名作ラブロマンスだと思っている)。本質的にフランス語を知らないからなのだ。私は映画をある一側面においては芸術だと考えている。芸術にはその作品の味というものがある。その一要素に言語が存在するのだ。大抵の人は普段、洋画を吹き替えや字幕で観るだろうが、原語を知らなければ細かいニュアンスまでを理解することは出来ない。つまり芸術の一要素である言語を存分に味わえていないのである。この映画では、その言語はフランス語であるから、私はこの作品を充分賞味することはできなかった。
ところで内容だが、これが期待以上だった。この映画でフランス語を学ぼうかと思ったほどだ。友情物やマフィア物は世に多数あるが、この二つの要素が上手く調和している。特に終盤の畳み掛けと哀愁漂う雰囲気は圧巻の一言である。また、この作品は脚本のみならず、構成も捻りが効いている。それぞれの人物描写、組織、台詞までもが自然に流れるよう工夫されている。これは個人的な感想だが、現在と過去を同時に描く手法は、ゴッドファーザーPartⅡの大ファンである私の胸を射抜いた。
無論欠点もある。これは歴史学であれば網野善彦氏、人類学であればレヴィストロース氏等と大学院生を比べるくらい理不尽な指摘だが、この映画は地味だ。勿論主人公が初老であるから当然といえば当然だが、ゴッドファーザーPartⅠのヴィトーコルレオーネのような深みがない(尤も描きたいものが違うため比べること自体お門違いかもしれないが)。ただこの地味さが、どうしてもきらびやかなイメージを帯びるフランス映画史で覇権を握ることができなかった要因と言えるのではないか。
長々と書いたが、この映画は、とりあえず観てみた方が良い作品である。邦題も内容も大変地味だが大変かっこいい。ぜひフランス語を学んでからもう1度観てみたい映画である。
本の人

本の人