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オール・アバウト・マイ・マザーのtsuraのレビュー・感想・評価

4.6
全ての女性に捧げる愛の賛歌。


ペドロ・アルモドバル監督の作品はいずれも好き嫌い別れるけれど、私にとっては彼の作品に出会った高校生のあの頃から変わらずマイフェイバリットである。

一貫して彼の作品から溢れる愛に溺れている。


この作品をその頃見た筈なのだが、どうしても結末まで見た記憶が無く珍しく評価不可の状態で宙ぶらりんだったこの作品を再見しようと思ったのは先般のカンヌ国際映画祭で新作が素晴らしいとのレビューを目にした時から。

大好きな監督の作品から久々に耳にした吉報。


そういう訳で、私にとっては満を持しての再鑑賞となった。

そして、どうだろう。

冒頭から溢れる愛に咽び泣きそうで。

遂にはそれぞれの苦悩と向き合いながら懸命に生きる女性達の人生のバラードに私の心は慟哭したままで、遂には映画のクライマックスまで息つく間もなくその人生の物語にひれ伏した。

これはまさに傑作と言って全く異論の余地無いと思う。

主人公マヌエラは息子のエステバンと二人暮らしだったが、何不自由無く愛の満ちた生活を送っていた。

ある日、息子の誕生日に舞台「欲望という名の電車」を鑑賞した帰り、大女優ウマ・ロッホのサイン欲しさに出待ちしていた折、交通事故に遭い命を落とす。

自分の命より大切な存在の不在がどれほど心を傷めるのか。

この序盤の展開だけで心を締め付ける。

あまりの哀切にマドリードでの生活に見切りを付けバルセロナに引っ越しをする。
その引っ越しはまるで人生ともう一度向き合う旅の様。

そこから出会う様々な境遇に彷徨う女性達との邂逅、そして彼女達の生き様をこの作品は丁寧にそして時に嵐のような猛々しさで迫っていく。
たしかに突飛な設定やそんなアホな笑と一蹴したくなるツッコミ所も有ると言えばある。
しかし其れ等もなんていうか、私達の周辺にも起こりうるハプニングみたく切り取られている。言うならば描かれるそれらは私達がまるで呼吸し、久々の生活を送るかのようにごく自然的に描写されている。

そもそもこの作品が上手いなと感じたのはそんな彼女達、特にマヌエラ、ウマ・ロッホ、シスター・ロサ、アグリードの4人の波瀾万丈な女達の交錯にある。
そして、それの根底に流れるは血の様にこの作品に通っている。
オープニングでマヌエラとエステバンが夕食時に見た「イヴの総て」 だ。

何の因果だろうか。
まさかそこにある題材のベースがこの作品の中に生きる女性の生き様にダイナミズムを与えているとは。

もちろん影響にある事は明白だけどその女達の人生のドラマに流れる嫉妬や情、欲、傲慢さ、生きる強さなどが見事にこの作品では完璧な悲喜劇的として昇華されていることこそがアミノ酸たっぷりの旨味となっているわけだ。

だから不意打ちにくる大胆なドラマのそれぞれ、いずれも力強く説得力を備え涙をそそるのだ。

そして「欲望という名の電車」に本来描かれている物語に沿う様にエイズや麻薬、LGBTQにもしっかり向き合っている。

まさにこれぞ、アルモドバル!です。


何も人生、全て暗いわけではない。
どんな形であれ希望や光、生きる糧は必ず何処かにあるのだ。

この作品はそれを教えてくれた。
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