むるむる

クレイマー、クレイマーのむるむるのネタバレレビュー・内容・結末

クレイマー、クレイマー(1979年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

子どもの頃に観た作品を久しぶりに鑑賞。
昔観た時は良い映画だな〜くらいに思っていた作品が、今観ると、もうとんでもなく素晴らしい作品だった。人生で1位、2位を争う作品になった。
家父長制の世の中で、家庭に入り誰かの妻であり母であることを強いられる女の孤独にも言及しており、本当に1970年代の作品なのか?と驚かされた。

脚本が素晴らしいのか、各所に対比構造が見られ、そこに気づかなくとも面白い名作なのだが、気づいた時の感動が深い。

まずは冒頭、エレベーターのシーン。
家を飛び出しエレベーターに乗る妻、追いかけてエレベーターを止める夫。とにかく出て行きたいという妻の切望を聞かず引き留めようとする夫が描かれる。
ラストでもエレベーターに乗るシーンがあるのだが、この時には2人の精神状態も状況も変わり、完全に違うものになる。
息子を引き取りに来た妻だが、夫が以前とは違うと理解し、自分が連れて行くべきではないとエントランスで思い留まる。息子には会わない方がよいだろうと。しかし夫は、息子を連れ去られるかもしれない状況でありながら、息子に会うように彼女の背中を押す。
冒頭ではエレベーターから引きずり下ろそうとした彼が、ラストではエレベーターへ送り出すのだ。
2人の状況も振る舞いも完全に対比になっている。泣いて顔がぐしゃぐしゃになっている妻にかける言葉も、過去と今で対比になっている。気づいた時の快感がすごい。

また、有名な息子との朝食シーン。
最初はしっちゃかめっちゃかだった朝食作りがすっかり様になって、息子と役割分担して綺麗に仕上げられている。父子の変化、経過がはっきりとわかるシーンだ。

この他にも、同じ構図で見せているシーンがあったりと、妻が出て行った当初とそれ以降とで変化の対比が見られる。
自分のことばかり主張していた男が、相手の主張を聞くようになった、父親になった変化が丁寧に描かれた作品だった。
これは妻もそうである。限界だったとはいえ身勝手な振る舞いをして己の主張を通そうとした妻も、裁判で第三者からの叱責を受け、夫の変化に気づき、自分ではなく息子にとって何が良いのか考える母となった。(親権争いの裁判を入れているのも実にうまい脚本だと思う。物語の展開都合上というのもあるが、夫婦ともに第三者から過去の行いを叱責されるシーンがあることでより反省が深まり、お互いを許す過程が描かれている)

クレイマー夫妻、「Claimer(クレイマー)」=権利を主張する人。
その2人が対話をしてそれぞれの権利を重んじるようになる物語。役者達の名演もあり、大変よかった。

※追記
「そこで終わるのか」「息子の意見を聞くべき」というレビューも見受けられるので…
これは私の解釈なので正解ではないと思いますが、妻をエレベーターに送り出し、その後どうなったのかを描かなかったのは、あの後息子の気持ち次第で変わるだろうというラストだったのではないかなと思います。
ラストに妻が引き取ることをやめると発言したのはそういうことでしょう。息子がついて行きたいといえば一緒に降りて来るでしょうし、父と残ることを選ぶなら、きっと母は一人で降りてくる。クレイマー夫妻が相手の気持ちを重んじることを学んだが故のラストだと思います。