SANKOU

クレイマー、クレイマーのSANKOUのレビュー・感想・評価

クレイマー、クレイマー(1979年製作の映画)
4.9
最初は些細なことから取り返しのつかない大きなズレになり、果てに破局を迎えてしまう、夫婦とは実はとても脆い絆なのだと思い知らされた。そして二人の間に子供がいた場合、その子にとってどちらについていくことが最善なのか。必ずしも愛の深さがその子の為になるとは限らないと考えさせられた。今まで仕事に熱中するあまり、家族を顧みなかったテッドにも大きな責任があり、ジョアンナが出ていった後、初めてビリーと二人の生活を始める朝食のシーンで、フレンチトーストひとつ作れない姿はとても印象的だ。上手く噛み合わず衝突を繰り返すが、決してテッドは息子に無関心ではなく、彼なりの精一杯の愛情を注いでいる。そしてビリーもかまってもらえる時間が少なく不満は溜まっていくが、決して父親が嫌いなわけではない。少しずつ二人の生活にリズムが生まれ、朝食でドーナツを食べるシーンでは、二人とも無言ながらそれぞれに自分の役割を果たし、上手く呼吸を合わせて生活をしているのが何とも微笑ましく感じる。この映画で男が会社勤めをすることと、家事をこなしながら生活することが、とても対極な位置にあることを痛感させられる。家庭問題が仕事にまで影響を及ぼしていると判断した会社の上層部が、あっさりとテッドを解雇するシーンがとても残酷だった。この映画では父親目線で話が進むので、子供と夫を捨てたジョアンナがどうしても悪者にされがちであるが、子育てがいかに大変であるか、目線を変えればその大部分を担う女性の逞しさを感じさせられるものでもある。ジョアンナは母親としての逞しさはあったが、女性としての心の弱さが強く出てしまい、結果夫婦生活を継続させることが出来なかった。男の身勝手さや無関心さが、紙一重で家庭を壊してしまう、その罪深さを考えてしまった。テッド役のダスティン・ホフマンの父親っぷりがとても良かったのと、ちょっと情けないところもあるが、男気のある役をやらせたらこの人は本当に凄いと思った。最初は大失敗のフレンチトーストを後半、ビリーとの共同作業で手際よく作る姿にジーンときた。
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