あんじょーら

フローズン・タイムのあんじょーらのレビュー・感想・評価

フローズン・タイム(2006年製作の映画)
4.0
何気なく、タイトルで気になったので見ましたが、なかなか良かったです。不眠ネタも今はなかなかいいです、不眠症じゃないけど分かりますし。


美大生のベンは恋人に振られてしまったために不眠症に悩まされます。何をやっても眠れなくなったベンはその睡眠時間をスーパーでのバイトに当てる事にします。このスーパーがとても変わり者の巣で、どうしようもない人間がいろいろいます。それでもいくらか気分が紛れたベンに眠りが訪れなくなってから2週間が経過して・・・


というのが物語の冒頭なのですが、とにかく映像が綺麗です。静止画の中を歩き回る、という構図がとても綺麗ですし、奇妙にエロティシズムがあって好きです。またキャラクターもたしかにダメ人間なんですが、それなりに社会性があったり、あまりに逸脱した存在ではなく、あくまで愛らしいダメ人間であるところが、ファンタジックな静止画の世界と、リアルな世界の対比が現れていて良かったです。このギャップの部分はなかなか見事な構成だと思います。


またキャスティングで光っているのは主人公ベンの幼馴染の役がものすごく良かったです。しかも演技じゃなくて、このどうしようもない軽薄でダメだけどポジティブな男のキャラクターを顔だけで納得させられるキャスティング!はまり役です。とにかく女の子に水を掛けられるんですが、その時の表情の暗さと明るさの妙に混じった顔がたまりません。また最初は端役に思えて実は・・・的なヒロインもその見せ方が、徐々に画面での存在感が上がっていくように見えて上手いと思いました。


しかし、なにより素晴らしいのは、やはり映像です。振り返る彼女の先にある夕陽にすべてがオレンジに染まり、彼女の顔は鮮明には見えない逆光の中だからこその想像で補われた美しさ。普通の生活の中にあるヌードの美しさを知らされる設定、そして名も無き人の静寂の中にある、人の中にある美そのもの。さらに最後のカット、切り取られた世界に降る雪の美しさ。大変良かったです。


ただ、もちろん難点もあって、ある世界で動ける人間のその後や、うまく行き過ぎる結末、細かな気になる部分も多いでしょうけれど、しかし何よりも映像として美しいので許してしまいました。イスを引きずるシーンも笑えて好きです。


不眠に関係ある方に、綺麗な映像が好きな方にオススメ致します。


あ、あと、ぼかしはホントに下品なので止めて欲しいですね。