春千雅

哀しき獣の春千雅のレビュー・感想・評価

哀しき獣(2010年製作の映画)
4.0
「チェイサー」が良かったので鑑賞してみた映画。
ナ・ホンジン監督の映画はどれも本当に生々しい。そして結果誰も救われないのがこの監督の作品の特徴かなと・・・・。
あと、とにかく暴力シーンが秀逸。
飛び散る赤黒い血、錆びた斧、台所の刃物、鈍器が肉にぶつかる音。最終的に全員が人殺しとなり、ほぼ全員負傷して死ぬ。文字にするとバイオレンス映画の風味が出てくるが、登場人物に狂人は一人もおらず、みんな妙に人間臭い。返り血、傷跡、殺した後の息切れ、何度も何度も斧を振り下ろす必死な姿が妙にリアルだった。
特に主人公。
借金を抱えた貧しい朝鮮族のグナム。殺人からは無縁の普通の男が生活苦から依頼殺人を請け負う。最初は殺されたターゲットの親指を切り取る事すらままならない素人が、追い詰められるうちに徐々になりふり構わない人殺しに変化する。悲壮感溢れる演技に夢中になった。
逃げる為には人を脅し、殺すようにもなったグナムが最後まで妻を思い、子供の為に帰郷しようとした姿が切ない。
終盤で血生臭い殺し合いの発端が明らかになるが、それがとてもヤリキレナイ。さらにエンドロール中の映像も見逃さないほうがいい。
本当に「哀しい」というタイトルがぴったり。
こればかりは邦題に納得。
春千雅

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