真一

仄暗い水の底からの真一のレビュー・感想・評価

仄暗い水の底から(2001年製作の映画)
4.1
 水を伝ってじわじわと迫り来る「霊気」の源泉は、温もりを求める弱者を寄せ付けない都会の「冷気」だったー。そんなメッセージを発信する「仄暗い水の底から」は、間違いなくJホラー傑作集に入る一本です。再掲。

 「冷気」を生み出しているのは、主人公である母親(黒木瞳)の不安や恐怖、悲しみに何の関心も示さない都会の住人たちだ。不気味な水漏れを知らせても動こうとしない老管理人。母親の抗議を受け、うわべだけ老管理人をなじってみせる管理会社社員。やっつけ仕事の感覚で幼児と接する保育士。エゴむき出しで離婚調停を進める夫。愛なき世界の「冷気」に追い立てられた母親と娘が、知らず知らずのうちに「霊気」に近づいていく展開に、なんとも言えない世の不条理さと切なさを感じる。

 ヒタヒタと近づいてくる「霊気」の正体が、やはり都会の「冷気」に弾き出された幼い命だと気づく辺りで、映画はクライマックスを迎える。冷たい都会に打ちのめされた「生ける弱者」と「死せる弱者」が、都市のライフラインである水道水を媒介に、吸い寄せられるように出会い、さ迷う。あまりに切ない。だから、怖い。

 高校進学した愛娘(水川あさみ)が、既に廃墟と化した団地を訪れ、母親の霊と会うラストシーンは、どう感情移入したらいいか分からず、戸惑った。だが、無機質な団地のシルエットをエンディングに持ってきたのは良かったと思う。「冷気」と「霊気」を醸し出しており、ぞっとした。


 映画を観て、母子家庭に対する日本社会の冷たい表情に、あらためて気づかされました。今から21年前(2002年)の作品だが、シングルマザーを取り巻く環境は、厳しい経済状況に照らせば、むしろ深刻化しているはずです。多くの都会人が、母子家庭の貧困を他人事だと考え、見て見ぬふりをしているからでしょう。自分を含めて。主人公の母親に感情移入したはずなのに、私たちは老管理人や保育士らと同じ側に立ち、無意識のうちに都会の「冷気」を発しているのではないかと思います。
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