Yui

ケスのYuiのレビュー・感想・評価

ケス(1969年製作の映画)
4.0
母と兄と3人で暮らす15歳の少年ビリーは、ある日見つけたハヤブサの巣からヒナを持ち帰り、ケスと名付けて飼い始める。学校では教師からも同級生からもひどい扱いを受ける彼は、ケスと過ごす時間だけが唯一の楽しみとなっていく…。

1960年代前半のイギリス、ヨークシャー地方を舞台に、労働者階級の少年とハヤブサの交流を、厳しさとあたたかさの同居する繊細なタッチで描いた作品。


ケン・ローチ監督の作品は三作目でしたが、本作も辛い現実だった…。

15歳には見えない小さくて痩せた身体。教師は酷い扱いだし、同級生にもいじめられて、家での扱いも決して大切にされているとは言えない。時代や国や環境で色々と違う事はあると思うけど、そういう事じゃないよなぁ…。体操服さえビリーだけ持っていないのに、母親は綺麗にしているし…。

兄にも良いように使われ、気にいらないと暴力だったり、意地悪をされたり…。本当に胸が苦しくなる事ばかりだった。

そんな中、淡々と毎日を懸命に生きているビリー。やりたい事があるから働くのではなく、ただ、お金がないと生きていけないから働くという選択肢しかない彼が、ケスと名付けたハヤブサと出会い、彼の日常に、生きる希望や子供らしさが芽生えて行く…。

苛酷な生活の中で、孤独な心を通い合わせる唯一の相手がケスだった。

ビリーとケスのシーンは、映画としてとても素敵でした。


とにかく理不尽。理不尽な事だらけ。
昔は良かったなんて言うけど、その昔はこの母や兄のように、教師のように、子供に理不尽を押し付けて、見ないふりをする傍観者達も多くいたんだろうと思う。
逆に今は、神経質だったり、過剰だったりするのかもしれないけど、逆にこういう子供は少ない分、今の方がましなのかもしれないな。

そんな理不尽で救いようのない彼の生活、社会に対する怒りを描いた作品だったのかな。生活に困窮していなければ、兄も母もまともだったのか…。体操服や必要な物を満足に買える生活だったら、もっと違った明日や未来があったのか…。

久しぶりにずしんと来ました。

呆気なく終わるラストが、
余計に胸を締め付けます。



2022-216
Yui

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