このレビューはネタバレを含みます
<神に救いを求め、より深い愛に出会う>
夫を事故で亡くしたシネは幼い息子を連れて、夫の故郷の密陽に引っ越してくる。そこで自動車修理工場を営むジョンチャンと知り合った彼女は、彼の好意でピアノ教室を開き新たな生活をスタートさせるが、ある日、息子が何者かに誘拐されて‥‥。
都会から見ず知らずの田舎町に来たシネの、見栄から出た軽口が思いがけない悲劇を呼び寄せてしまう。葛藤の末に宗教に救いを求めて入信し、犯人を赦すことで心の安寧を得ようと面会するが、犯人は既に神から赦しを得たとうそぶき、犯人を赦すという善行はあえなく否定されてしまった。
神が信じられなくなったシネは、裏切った神と宗教の権威失墜を狙った復讐作戦を試みるが成功することなく、自身の価値観も揺らいで狂気に囚われていく。この見栄っ張り女の身勝手な復讐劇を演じたチョン・ドヨンの凄さに惹き込まれた。
その一方で、彼女に想いを寄せながら見向きもされず、それでもひたすら寄り添い続ける不器用な男、ソン・ガンホがいい。彼女の悲しみを和らげようとする温かい陽射しのような存在で、彼こそが神なのではないか。本物の神様は助けてくれなかったが、いつの間にか救われていたと彼女もやがて気づくはずだ。そんなラブストーリーでもある。
全編、痛ましい展開でありながら、皮肉とユーモアで優しく包み込むような不思議な温もりが漂っている。アンチ宗教が本旨というより、懐深い無償の愛こそ救いであり人々に降り注ぐ神の光なのだ、そう言っている気がした。