ボブおじさん

犬神家の一族のボブおじさんのレビュー・感想・評価

犬神家の一族(1976年製作の映画)
4.0
1976年衰退の一途を辿る、日本の映画界に突如彗星のごとく現れ、〝読んでから見るか、見てから読むか〟をコピーにした書籍との連動や、当時はまだ珍しかったテレビを使っての宣伝といったメディアミックス展開を行ない、日本映画界に革命を起こした角川映画。その記念すべき第1作目として製作されたのがこの映画である。

数ある角川書店原作本の中から、この映画を第1弾に選んだことが、後に一時代を築いた角川映画黄金時代に結び付いたと思う。ミステリーとして優れた原作は他にもあったと思うが、この作品こそ角川が狙ったメディアミックス戦略と最も相性が良かったのではないだろうか?

まず当時、私が鮮明に覚えているのがインパクト満点のポスターとCMだ。〝湖の水面から突き出た2本の足〟おそらく日本映画史上最も有名な死体ではないだろうか?

そして映画化成功の最大の要因は、謎解きでも豪華な俳優陣でも名探偵金田一でもない。小説では不可能なビジュアル表現による強烈なインパクトによって生み出されたスーパキャラクター〝佐清(スケキヨ)〟の登場だ‼︎

この余りにも有名な白覆面の存在は、瞬く間に一映画のキャラクターの枠を飛び越え日本映画史に残るアイコンとして、その後様々な映画やドラマ、バラエティなどのパロディとして登場することになる。

このキャッチーなビジュアル戦略が見事にハマり映画は大ヒットする。もちろん内容も優れていて、横溝正史独特の愛と憎しみが渦巻く おどろおどろしい世界を、市川崑監督が、豪華キャストや旧家の屋敷内の絢爛たる美術、大野雄二による叙情的で印象に残るテーマ曲を配して華麗に映画化している。

ストップモーションやネガポジが逆転する回想場面、連続するカットバックなど撮影技術や編集にもこだわりを見せる。

当時35歳の石坂浩二は元々は清潔感あふれる二枚目俳優で、原作の金田一耕助とはイメージが違うと言われていた。だが、蓋を開ければ、この金田一は評判を呼び、以後、同じ監督・主演コンビで計5本の作品が製作された。30年後の2006年には同じ市川監督・石坂主演によるリメイク版も作られている。その後も数多くの役者によって演じられているが、個人的にも金田一と言えば石坂浩二か古谷一行のイメージが強い。

アメリカ映画に登場する、タフガイが拳銃と鉄拳でハードボイルドにきめる探偵たちの対極にいるような、ニコニコと気弱そうに振る舞いながら明快に謎を解き明かすこの探偵が当時の日本人に受けたのだと思う。

呪われた家系の中で実行される連続殺人事件という重苦しい雰囲気の中、なにかというと早合点して〝よし!わかった〟と叫ぶ加藤武の警察署長が、一服の清涼剤として笑いを運んでくれる。

〈あらすじ〉
日本の製薬王、犬神佐兵衛が残した謎の遺言状。犬神財閥の巨額の遺産を巡って、血塗られた連続殺人が起こる。犬神家の家宝である 斧(ヨキ)・琴(コト)・菊(キク)に隠された秘密とは? 名探偵・金田一耕助が解き明かす血の系譜、そして意外な真相とは!?