dieBananaSuki

ヒストリー・オブ・バイオレンスのdieBananaSukiのネタバレレビュー・内容・結末

4.6

このレビューはネタバレを含みます

かなり静かな良い映画だ
凡百のアクション映画とは違い、暴力シーンにカタルシスがなく、あっさりしている。危機を脱したことによる安堵や憎い奴を殺した爽快感などの感情が想起されない、極めてドライな暴力の描き方をしている。そのうえ、暴力シーンの後味は悪く、ある種の罪悪感やもう後戻りできない感じ、やってしまった感じなどのどんどん崖側に追い詰められていく息苦しさがある。これはひとえに、主人公トムの過去の姿、ジョーイの顔がのぞいてくること、またそれによる家族崩壊の予感などが想像できるからだろう。
本作はセックスシーンとラストシーンが印象的である。
セックスシーンは2回あるのだが、それらは対比関係にある。つまり、優しく模範的な一市民であるトムとの愛のあるセックスと、金と快楽のために殺しをするけだもののジョーイの強姦のようなセックスの対比だ。トムの変化、それによる愛の変化が表現された良いシーンだ。1度目のセックスシーンではコスプレセックスで、事後は裸で抱き合っているのだが、2度目は服を着たままで行為に及び、事後にエディがシャワーを浴びている、つまり体を清めたい、セックスした男の記憶を消したいという思いが現れている。夫がやくざものであることがわかった後の妻の反応が映像で表現されていて面白いシーンだ。
ラストシーンは観客に解釈を委ねるものになっている。トムが過去の遺恨であるマフィア、兄を殺し、家に戻ってくる。そして家族が囲むテーブルにつく。俯くトムが顔を上げて妻の顔を見て終わるのだが、2人の顔がじっくりと写されてて、重々しく、気まずい雰囲気で映画が終わる。この後家族はバラバラになるのかどうか、愛する夫の真実を知ってもなお夫婦で居続ける選択をするのかという余白を残しているので、どことなく後味の悪さが残る。