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暴走パニック 大激突のTKLのレビュー・感想・評価

暴走パニック 大激突(1976年製作の映画)
4.1
いやはや、なんともトンデモナイ。
大胆で、猥雑で、非常識。時代を越えた昔の映画に対して、現在の倫理観と照らし合わせることはナンセンスだと思うが、あまりに自由で、あまりに奔放でエキサイティングな映画世界には、いまや「羨望」の眼差しを向けざるを得ない。

先日鑑賞した「狂った野獣」に続いての渡瀬恒彦主演作(同年製作)だったが、やっぱりこの時代のこのスター俳優の存在感と“アクション”は唯一無二であったろうことがギンギンに伝わってくる。
80年代生まれの者としては、渡瀬恒彦という俳優を認識した頃には、すでにサスペンスドラマに多数出演する好感度の高いテレビ俳優という印象が先行しており、渡哲也の実弟という立ち位置もあり俳優としてそれほど強いインパクトを感じたことはなかった。
しかし、この時代の彼の佇まいと雰囲気は、アクの強いダークヒーローであり、あらゆるアクションシーンを自分自身でこなしたという逸話も伝説的だ。
本作においても、決して正々堂々としたヒーローではなく、姑息さや残酷さも持ち合わせた犯罪者であるというキャラクター性が、ダークヒーローとしての存在感と哀愁を際立たせている。

そしてそこに「深作欣二」という巨大な劇薬が混ざり、映し出された映画世界は娯楽の混沌と化している。
中盤、本筋と外れたところで、或る変態医師のアブノーマルプレイがじっくりと映し出された時には、思わず「一体何を見せられているんだ」と困惑し呆然としてしまったが、それすらも最終的には娯楽の混沌の一要素としてまかり通してしまう圧倒的なエンターテイメント力にひれ伏すしか無かった。

クライマックスで待ち受けていたのは、タイトル通りの大暴走と、大パニック。
主人公のみならず、川谷拓三、室田日出男ら演じるこれまたアクの強い脇役たちや、通りすがりの端役に至るまで、それぞれが孕んでいた狂気性が爆発し、泥と爆音と共に入り乱れる様はまさしく阿鼻叫喚。
この時代を生きるすべての人間たちの鬱積が撒き散らされているようだった。

現代の最新カーアクション映画の筆頭といえばご存知「ワイルド・スピード」シリーズだが、50年近く前のニッポンに“元祖ワイルド・スピード”と呼ぶに相応しい映画が存在していたことを、ハリウッドの映画人たちは知っているだろうか。
あ、クエンティン・タランティーノ以外でね。
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