三島由紀夫の『金閣寺』を市川崑監督が映画化。実際の事件を元にしています。
主演は市川雷蔵。美剣士のイメージを打ち破ってのハマリ役でした。
撮影は、宮川一夫。美しかったシーンは多々あるけど、特に火の粉が舞うシーンはモノクロなのに色彩が見えるような圧巻の美しさ。
劇中では金閣寺は「驟閣寺」という名前になっています。OKが出なかったそう。
『金閣寺』は十代の頃に読んだきりだけど、女性とのシーンが印象的でした。
主人公の溝口は、母の不貞を目撃したトラウマや吃音のコンプレックスが根底にあり、女性と交わろうとすると金閣寺の幻想が目の前に現れて失敗に終わる。彼の人生そのものが集約されているかのよう。今作にはそこがほぼ描かれていません。
ラストシーンも原作と違う。私は三島の描くラストが好きだったので変えてしまったのは残念だった。市川崑監督は、実話の方を元にしています。
この「性」と「生」のシーンがカットされていることで、溝口の葛藤が省略され、三島文学の深みは減ってしまっているように感じました。
でも、原作を知らずに観たら映画としてはわかりやすくまとまっていて、すごく面白かったのでこれでいい。
特に仲代達矢が出てきてからは面白みが増した。主人公とは真反対の性格でギラついた瞳。存在感が違う。自分の想像を越えてきました。
現代なら統合失調症と理由づけられる犯罪なのでしょう。父の死、母の不貞、吃音のコンプレックス、さらに戦後の時代背景、僧侶という聖職の生業(なりわい)などが複雑に絡み合い形成された溝口という男。
孤独や哀れみ、疎外感、社会嫌悪がやがて金閣寺の美へと執着させる。汚れる前に自分の手で焼かなければという思いに取り憑かれる悲しい男の物語でした。
いろいろ考えさせられるけど、とても複雑で繊細な溝口の心情は、本当のところは誰にもわからないとも思う。
美は永遠ではなく、変わるもの。
友人のこの冷めた言葉が好きです。