マクガフィン

ソナチネのマクガフィンのレビュー・感想・評価

ソナチネ(1993年製作の映画)
4.7
沖縄の抗争に助っ人として送られたヤクザが抗争に巻き込まれていくフィルム・ノワール。

説明だけでなく台詞までも抽象化されて、独自で無駄のない削ぎ落とされた編集は、北野監督ならでは。台詞や伏線回収も抜かりなく、背景の色彩の美しさや様々な対比描写は絶妙なバランスで拮抗しており、細かく吟味された演出と構想は秀逸。
絶えず全編を覆うトーンが生と死を連想させて人間の悲劇性を描き、生へのリビドーと死のタナトスの両極を象徴的かつ寓意的に描く。

ヤクザ社会の空転する権謀術数に振り回されて、その背景の奔流に飲み込まれそうになる死を隣り合わせに生きる日々。それ故に刹那的に渇望する生を無邪気に戯れる海辺の模様に生と死が調和されていることに唸らされる。夏の終わりを告げるような儚さは、死への恐怖を具現化したような幻想的である。

ロングショットの俯瞰で現実と理想の狭間で眺めるような人間紙相撲のシーンは、当時の北野監督の心象描写のようにも感じる。死の切羽感から主人公(北野武)のニヒルな笑顔に正気が感じられなく、作品のテイスト同様に不気味な死の臭いが漂う。

「生」を赤とし、「死」を青とした対比が拮抗しているかのようであり、真赤の鮮血と紺碧の海と空に象徴されるように、全編に張り巡らされた赤と青からなる補色の組合せは、交差する生と死が痛切に伝わる。
視界から唐突に人間が失われていく無常さや、日増しに青い月が不気味な青さを増していくことで、次第に死の色のテイストが濃くなっていく。

視界から唐突に人間が失われていく無常さや、日増しに青い月が不気味な青さを増していくことは、リビドーとタナトスのベクトル振れが大きくなるかのようで、次第に死の色のテイストが濃くなっていく。

また、緊迫感が付きまとう無機質なコンクリート建造街から、誰もいない理想郷のような色濃い沖縄の海辺。穏やかな日常と不意の死の恐怖などの対比描写が抜群に効果的で、閉塞感と開放感の入り混じった緊張と緩和の絶妙で不思議な雰囲気を漂わせ続ける。

白昼夢的な海辺の遊戯全般の他は、それと対になるエレベーターと終盤の銃撃戦が素晴らしい。
まずエレベーター内の銃撃戦は、密閉空間から起こる体性感覚の気まずさを描写して、後の出来事を暗示するかのようなドアが開くたびに光が入り込む上手さが、エレベーターの中の銃撃戦にリアリティと緊張を加える。

終盤の乱射シーンは、配電をショートさせて暗闇になった会場でマシンガンを乱射し、マズルフラッシュの光が黒い車に反射して赤い閃光が飛び交う模様は、作品全般を象徴するような光と闇のコントラストが抜群で、煙に擦れる北野は狭間にいるようだ。 芸術の域に達する傑作。

・1993年 邦画 作品:第1位